『…王、…わが、主…、』
大きく見開かれた瞳から涙が一粒落ちた。
焦ったのは俺の方だった。何か言われることは覚悟していたが、まさか泣いてしまうとは予想していなくて完全に固まってしまった。
そんな俺をよそに、シルフは足早に近付いてきたかと思うと俺の前で膝を折った。ぼろぼろと涙を流しながら、それでも俺を見上げて心の底から嬉しそうに微笑む。
『この日を、どれだけ待ち望みましたことか…!あぁ、我らが主様っ…!』
「シルフ!跪かなくていいから!」
『いいえ、…主様、主さ、ま…。信じておりました。必ず、必ず来てくださると…!』
嬉しそうに泣く彼女に心が痛む。
体を起こしてくれないのなら、俺も膝を着いた。目線の高さを合わせれば、黄緑色の澄みきった両眼がさらに真ん丸になっていく。
『膝を汚されるなど、なりません!』
そうやって止めるのを無視して、彼女を抱きしめた。痛みを感じないように気をつけて、だが、抜けられないほどきつく強く抱き締める。
最初は僅かに抵抗していたが、ついに抵抗を弱めては俺の腕の中で震えながらすがりついてきた。ぎゅ、とコートを握る細くて繊細な指も震えていて、何度も彼女の頭を撫でた。
次第に聞こえる弱々しい嗚咽。
「ごめん。遅くなった」
『…主様が謝る必要などっ…』
「ごめん。ずっと一人にして、…ごめんね」
彼女の言う通り、俺が謝る必要なんてないのかもしれない。俺は自分が風の王だとは知らなかったし、いつこの世界に来るのかだって自分では決められなかった。
だが、こうも俺を望んでくれている人が、これだけ長い時を待って、俺が来たことにこんなに嬉しそうにしてくれている。…謝る他に一体どんな言葉を選べられたんだろう。
ごめん。遅くなった。
ありがとう。待ってくれて、信じてくれて。
俺が来たからもう大丈夫、だなんて言えるほどの力もないけれど、一緒に背負って、少しでも力になるつもりではいるんだよ。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。