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2.


カツ、カツ、と歩みを進める。

隠れる気はさらさらない。それよりもむしろシルフが現れないことが心配だったが、どうやらそれは杞憂に終わったらしい。

『誰ですか、…許可なく神殿に立ち入った者は』

凛と響いた美しい声に足を止めた。

その声はたとえるのなら春の風のように柔らかいのに、声色は冷たくて怒りが滲んでいた。

声の主は空気の揺れで、すぐに場所が分かった。顔を上げれば見える。ホールの奥、ステンドグラスの光を浴びた彼女、…シルフは、この世のものとは思えないほど美しい。

腰を越すストレートの濃緑色の髪は月の光を受けてキラキラと淡く輝き、それよりずっと明るい黄緑色の目は大きく、そして、意志が強い。怒りを滲ませたその目を縁取る長い睫毛も髪と同じ濃緑で、目に陰を落としていた。

ふわふわとした白いワンピースは裾が長く、肩も足首も露出していない品のいいものだった。そよ風に長い髪とワンピースを揺らす彼女は、きっと何よりも綺麗なんだろう。

彼女が人間と違うところは二つだけ。下に垂れた耳は小さな白い翼になっていることと、首筋にふわふわの小さな羽が見えることだ。

マーメイドが水のような柔らかい美しさだとしたら、シルフは風のような爽やかな美しさだ。

『どうやって結界を破ったのですか。…答えなさい、無礼者!……っ、え?』

俺は歩みを止めなかった。

そして、光の当たらない暗い場所から明るいステンドグラスの下へと入った途端、シルフの目が大きく見開かれる。信じられない、といった表情で手で口元を覆ったのが見えた。

そこでようやく立ち止まった。俺も何を言えばいいのか分からないが、ここで目を逸らすのは失礼だ。ゆっくりと微笑んで見せた。

「初めまして、シルフ」

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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。