「シルフのことは任せて。ちゃんと仲裁して町に風を取り戻すと約束するから」
『うん。お願い、王様』
「だから、君はこの地で今まで通りに暮らしていればいいんだよ」
クスクス、とヒッポグリフが笑う。
大きな目が細められて、とても嬉しそうだ。なに、と首を傾げれば、悪戯っぽく笑いながら大きな翼を動かして風を送ってくる。
『王様ってまだ若いのに王様らしいや』
「えっ?」
『すごく優しくて、俺達風の聖獣のことを考えてくれるんだよ。シルフ様がね、先代の王様は優しいお方だと言っていたんだけど、王様は先代様よりもっと優しいんだ!』
「何それ。…でも、ありがと」
『…王様はいい王様だから、自信持って』
ありがと、と心の中で繰り返す。
最後にもう一度擦り寄って、ヒッポグリフを離した。高らかに蹄の音を鳴らしながら彼が離れる。
バサッ、と薄灰色の大きな翼は逞しくて、広げたことで風が頬を撫でた。鷲の鉤爪の形をした前足が上げられる。一枚の絵のように神秘的な光景の中で、ただ鳶色の目だけが親しげに微笑むように柔らかく細められた。
『俺が必要になったらいつでも呼んで!すぐに駆けつけてあげるんだからね!』
「うん。…またね」
『またね、王様』
そして、彼は飛んでいった。
秋晴れの澄みきった青い空に小さくなっていくヒッポグリフの背中を、見送り続けた。
彼は、確かに俺の友人だった。
だが、王の責任が何か、まだ理解していなかった俺はまだまだひよっこで、彼が守るべき民だとはきちんと認識していなかった。
これが王の立場を理解する前の話。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。