「ラニアの現状は僕も風の噂でしか聞いたことがないんだけど、…いつからこんな様子に?」
「一年前の秋よ。シルフ様がお怒りになられて以来、雨は一滴も降らないの。今年の作物もダメで、冬越しなんてとても…」
「彼女はどこに?」
「神殿よ。でも、行ってはダメ。町の人間の謝罪ですら聞いてくださらないし、余所者のお兄ちゃん達なんて…。それに、とてもお強いわ」
女の子の睫毛が泣きそうに震える。
「シルフは君達に攻撃するの?」
ついその言葉に思わず口を挟めば、女の子がきつく俺を睨んだ。さっきまで泣きそうになっていたとは思えない、いや、目に薄く涙の膜を張っていても気丈に俺を睨んでいた。
「シルフ様が私達に攻撃するわけないじゃない!シルフ様はお優しくて、私達を守ってくださるの!それに、呼び捨てにしないで!」
さっと目線を走らせれば、遠目でこちらを観察している町人達も異論はないらしい。
この町の人達はシルフを慕っている。
自分達が飢えて渇いて死にそうになっている今でも、彼女を恨まずに、全ての責任は自分達にあると思っているようだ。
かつては良好な関係を築いていた。シルフは人間達を大事にしていたし、彼らはシルフに見放された今でも彼女を慕っている。…だったら、どうしてここまで拗れてしまったのか。
(俺のせいだよね、これ)
俺がもっと早くに来なかったから。
(一刻でも早くシルフに会わないと、)
俺はきちんといるよ、 って安心させて宥めて、この町に風を取り戻さなきゃならない。
随分と待たせてしまったシルフも、悪意はなくただ偶然シルフを怒らせてしまった町人達も、悲しい悲しいと訴え続ける精霊達も、…俺は胸が痛くて苦しくてたまらない。
落ち着くべく深呼吸をすれば、俺を焦りが伝わったらしいヒッポグリフが慰めるように小さく一度だけ翼を動かした。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。