ずっと流れ星を見ていた。そして、召喚の儀式を行う前の日の夜のようにイチルの温もりを感じながら、いつの間にか眠っていた。
目が覚めたのは太陽が地平線から顔を出す直前で、だいぶ傾いた満月だけを残した朝の空は白みはじめていた。イチルもすぐに目が覚め、ホーリエとオーツェルドは既に起きていた。
ぐっすりと気持ちよさそうに熟睡しているヒッポグリフは相当寝相が悪く、夢の中で爆走しているのかと疑わずにはいられないほど四肢を動かしていた。蝶々、と寝言を言っていたが、蝶々はそんなに高速では移動しない。
(イチルのとこで寝てよかった…)
じゃないと蹴り殺されていた。
朝日が出たと同時に出発すれば、昼過ぎにはラニアに到着した。ログ・ノーレンからここまで来るのに約半月かかったが、追い風があったおかげで普通より早かったらしい。
だが、目的地に着いた嬉しさは遠くから町並みを見た時までで、その町に一歩足を踏み入れた途端、言いようがなく気持ち悪くなった。
酸素や空気が薄いわけじゃない。そもそもこの町は平原であるし、すぐ隣から深い森が広がっているから空気は綺麗だ。
いや、空気は問題じゃない。
(問題は、…風だ)
風が吹かないとかそんな話じゃない。淀んでいる。風の精霊達はちゃんといるのに誰も動こうとはせず、むしろ動くことを禁じられたように息を殺してそっと存在感を消している。
気持ち悪くて仕方がない。
だが、俺の他にそれに気付いた人はいないらしく、息苦しくて思わず襟元を広げれば、イチルが心配そうに見てきた。
俺を見付けた風の精霊が喜びながら吹いてくる。それも控えめで、たとえるなら雨の日に拾ってくれそうな人を見付けた仔犬がよちよちと必死に歩いてくる感じだ。
(どうしたの?シルフに何か言われた?)
言葉を持たない精霊が返してくれる言葉はなかったが、感情は伝わってきた。
悲しい、悲しい、と。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。