王子様に奇襲という初対面を果たしてから一週間、俺はいまだに人間に戻れていない。
あの後、まだちょっぴり涙目だった王子様は、鳥だという理由で俺を容赦なく窓の外へと放り投げてくれやがった。なかなかの鬼畜ぶりだ。
こんなか弱くて可愛らしい小鳥をポイッと躊躇いもなく投げ捨てる。しかも、城の相当高い位置にある部屋の窓から。
王子様は見た目だけ王子様だ。
当然、俺が翼の使い方なんて知っているはずもなく、ひぃひぃ、実際にはピィピィ言いながら転がり落ちていったらいつの間にか三階くらいのテラスに着地していた。
唯一幸いだったことと言えば、王子様が野球のフォームを使わずに投げてくれたことだ。でなければ確実に死んでいた。
そして、そこで途方に暮れていれば、本を片手にした王子様が現れ、俺を見付けた。
あの時の顔は一生忘れない。
はあ?っていう顔を思いっきりしていた。
盛大な溜め息をついていたものの、再び俺を摘みあげてポケットに入れた。
あんな表情をしていたわりには意外と優しくて、医者を呼んで怪我を確認させていた。
怪我はなかったが、俺はどうやっても飛べなくて、結局王子様の自室に居候している。決して飼われているのではない。
繰り返すが、飼われているのではない。
この一週間で分かったことがたくさんある。
まず、この城は王城で、王子様は見た目だけではなく名実ともに本物の王子様だった。
名前はイチル・セットレイア。第二王子。お兄さんがいて、お兄さんを王位に推薦する派と彼を王位に推薦する派が存在する。
前者が圧倒的に多い。この理由はお兄さんの人柄と王子様、…って言っても二人いるからイチルでいいか、彼の能力が原因らしい。
彼の兄の名は、カルナダ・セットレイア。
文武両道の才色兼備。華やかなイチルとは違って落ち着いて美形で、政治の才能もあって、民に優しくて物腰が柔らかい。
しかも、魔力が強く、雷系のSS級聖獣であるドラゴンと契約をしている。
まさに理想の未来の王様。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。