結局、ホーリエが引いた。
変な気を起こしたらどうなるか分かっているね、と脅されたが、彼は渋々ながらもついにイチルの決定を受け入れたらしい。もちろん、この変な気というのは攻撃の意志で、間違っても彼の恋人を誘惑するとかいう意味じゃない。
とにかく、無事にパーティーに加わることができてよかった。だが、次の問題は息をつく暇も与えてくれずに出てきてしまった。
部屋だ。
とりあえず夜も遅いから自分の部屋に戻る、と嘘をついて出てきたが、生憎あの宿屋は満室になっていた。他の宿屋を探そうとしたが、月も高い夜中に受け入れてくれそうな宿はない。
「嘘だぁ…、」
前の世界なら部屋が空いていれば夜中でも泊まれるんだろう。だが、この世界では一定の時間になると閉まってしまう。オーナーにも休息が必要だし、何よりも深夜にやってくる客の多くは柄が悪いらしい。実質上の受け入れ拒否だ。
因みに、ちゃっかり確認したところ、ホーリエとオーツェルドが一部屋で、イチルは前に俺といた部屋で寝るつもりらしい。
「…まさか、野宿?」
まだ宿屋が空いている一筋の希望を抱いて道を行ったり来たりしていたが、やはり空いていない。
行く場所もなくてあの林に戻ってきてしまって、大きな木の下に蹲った。風の精霊達が心配そうにしてくれるのがせめてもの慰めだ。もう、完全に途方に暮れていたんだ。
「…どうしよう」
その時、声が聞こえた。
きゅう、きゅう、と可愛らしい声だったが、その声はとてもか細くて不安を滲ませていた。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。