よく聞けば、その声は泣いていた。
『っ、…っく、…ぇ、く』
嗚咽混じりの泣き声をたどっていけば、そう遠くない木の根本に何かいた。馬より少し小ぶりな大きさで、背中に翼が生えている。聖獣のようだ。
ペガサスかとも思ったが、鋭い鉤爪がある。その聖獣は必死に背中を丸めて泣いていた。
「ねぇ、君、大丈夫?」
『んっく!?』
ビクり、と肩が跳ね上がった。
振り返った頭は鷲にとてもよく似ていた。
俺はこの聖獣を知っている。馬に似た体、翼、鋭い鉤爪、何より鷲にそっくりな頭。ヒッポグリフだ。
気位が高いと言われているが、まだ幼さを残したこのヒッポグリフは涙で顔がボロボロになっており、一瞬の怯えを見せた。だが、次の瞬間には灰色の目が丸まり、さらに激しく泣き出した。
「え、なに!?なんで!?」
『っうぐ、王様だ、王様だぁあ!』
そして、そのまま俺にタックルした。
「ぐぇっ」
馬ほどの巨体の突進に耐えきれるはずもなく、あっけないほど簡単に押し倒された俺の口から出てきたのは蛙が潰れたような声だけで、ヒッポグリフの涙が次々に頬に落ちてくる。
彼は抱きしめているつもりかもしれないが、俺は圧死してしまいそうだ。
「ちょ、待って、待って、落ち着いてってば」
『うわぁん、王様助けてぇええ』
助けてほしいなら殺さないで。
と、言いそうになるのを飲み込んだ。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。