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9.


それは一瞬の出来事だった。

床が光ったかと思えば、氷の槍が生えてきた。

鋭い透明な槍は、細いのにとても密集していて、白い冷気を放ちながら逃げ場を奪ってくる。ほんの少しでも動いたら刺さる絶妙な距離に調整された氷に、息を詰めた。

「はい、僕の勝ち」

彼は笑っているが、俺は状況を飲み込めない。

俺が答えた名前は嘘なんかじゃなかったはずだ。なのに、どうして。マーメイドの蒼白の顔を見ても、答えは分からなかった。

「あんたやっぱり詐欺師でしょ?」

近付いてくるホーリエに訳が分からないという表情をすれば、顔を顰められた。

「とぼけないで」

「とぼけて、なんか…」

「じゃあ、どうして僕がそう思ったのか教えてあげる。言い訳できないように、ね」

今、俺はイチルとは初対面の状態なのに、つい癖のように目線だけで助けを求めてしまった。

俺と目が合うと僅かに悲しそうにして目を逸らした。今の俺に何を求めたのかは知らないが、少しでも一緒に来てほしいと思ってくれたんだろうか。

「魔王の名前は伝説にも語られていない情報だ。実は僕も知らない。この意味が分かる?」

「っ!」

やっと頭が回ってきた。理解できたんだ。

魔王の名前は伝説にも語られていない情報。つまり、聖剣と同じランクの貴重な情報なんだ。聖剣には金貨一袋の値をつけたのに、この情報はたった半袋の金貨で取り引きをしようとした。

俺がこの情報を正しく把握し、価値を理解していたなら値段の交渉に出るべきだったんだ。それをしなかった。つまり、情報の貴重さを理解していなかった。あるいは、もともと情報は偽物だった。

どちらにしろ情報屋には致命的だ。

正解は値段を交渉してから告げる。もしくは、知らないと答えても誠意を見せられたのに。

情報屋としての判断能力が低い。取り引きで偽物の情報を与えた。そのどちらで捉えられても、聖剣の情報を疑われ、取り引きをやめると決断するに充分すぎる理由になってしまった。

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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。