それはまるで一枚の絵のようだった。
林の中の開いた場所。夜風に揺れる木々に囲まれた真ん中で、星の淡く青白い光に照らされながらイチルが剣を振っていた。
金糸のような艶やかな髪は夜でも輝きを失っておらず、むしろ辺りが暗いからこそ僅かな光を受けて一層と美しさを増す。それが剣を振る動きに合わせて揺れては、なびく。
よく手入れされた剣が星の光を鋭く反射する。その太刀筋は迷いがなくて、惚れ惚れするほど綺麗だった。一瞬で切り上げる素早さは、剣の青白い反射を筋として残したようだ。
そして、サファイアの目の真剣さと、鋭さ。
(こんな夜中に鍛錬?)
もう少し見ていたかったが、バチッと音がするほど強く目が合った。声も出していないし、音も立ててないのに、イチルは唐突に、本当に前触れもなくこちらを見た。
「何か用か?」
「っ、」
見つけられたことに驚いたわけじゃない。イチルだって気配に鋭い。そうじゃなくて、イチルの声に驚いてしまって、警戒を顕にした声を聞いて初めて普段の声がどれだけ優しいか知った。
木の陰から星の光が降り注ぐ場所へ出る。イチルが警戒を強めたのが分かった。
「こんばんは。こんな夜中に…、精が出るね」
その声は思っていたよりも緊張していた。
「…何の用だ」
「商売の話だよ。君にとっても悪い話じゃない。…オリオンの聖剣の在処(ありか)を知っている。売ってあげるよ?」
イチルの眉が寄っていく。信用できないと態度が言っていたが、このチャンスを逃がすこともできないんだろう。それでいい。信用できなくても、耳を傾けてくれるだけで勝機は生まれるんだから。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。