崖だった。
崖だ、と認識した時には既に地面はなかった。ひっ、と思わず頬が引きつる。風が俺を守ってくれると信じるしかない。
ふわ、と舞うとか、そんな可愛らしいものじゃない。もっともっと凄まじい風にものすごい勢いで吹き飛ばされていく。
傍から見れば飛んでいるだろう。
ここに崖があるとは知らなくて、というより空中に投げ出されたのは初体験で、慌てながら両手をパタパタと動かした。
(ちょ、落ち着けって俺!鳥じゃないんだから、飛べないに決まってんでしょ!)
鳥じゃないのに鳥肌が立つ。
(飛べる、飛べる、飛べる!!)
というより、飛ばなきゃ死ぬ。
そして、風が止まった。
(死ぬぅうううぅぅうう!!!!!!)
俺は鳥じゃない訳で。飛べない訳で。
吹き飛ばされていた状態から、一気に抵抗もなく重力に従っている訳で。
必死に腕をパタパタしていれば慰め程度に滑空出来ている気もしなくはないが、地面に叩きつけることは免れない。
落ちる。一直線に落ちていく。
ジェットコースターにしては垂直すぎて、バンジーにしては命綱が存在しない。
怖くて閉じていた目を必死に開ければ、目の前、そう、本当にもうすぐぶつかるという距離にありえないものを見付けた。
城だ。中世の西欧のような豪華な城。壮大な庭はよく整えられている。輝くような白塗りの壁、綺麗に磨かれた大きな窓。
(窓にぶつかる!!)
だが、ここで奇跡が起こった。
窓が開いたのだ。
だが、もちろん窓が一人で勝手に開くはずもなく、当然誰かが開けたわけで、俺は窓を開けたその人物に向かって突っ込んだ。
「ッ、…!」
「がは、う、ッぁ、」
息も詰まるような衝撃だった。
もう全身の骨が砕けたかと思った。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。