人の手に掴まれる感覚じゃない。
全体的に緩く圧迫される感じだ。
俺の手は全く向けようと思っていなかった方向に向かされ、そして、緩い圧迫が嘘だったかのように引っ張られた。
「ちょ、嘘ぉ!?」
渦巻く風が一瞬で霧散する。
それと同時に強烈な追い風が来た。
強く背中を押す風に走らさざるを得なくなって、駆け出す。風と競うように走る、走る、走る。花びらが嬉しげにひらひら、ふわふわ、と舞う。
通学路を駆けていく。引っ張られているからなのか、押されているからなのか、全力で走っても息は切れなかった。
いつの間にか手は離されていたが、背中を押す風は凪ぐ気配を持たなくて。二つの分かれ道。いつもは左、川が見える方に曲がるところなのに右に押される。それに従って走った。
不思議な風について、長年の経験から導きだしたことはもう一つある。
この風には、意思がある。
風が俺を助ける時ならともかく、今みたいにどこかに連れていこうとする時は、その先に俺が行かなければならない場所がある。
びゅう、びゅう。
おいで、おいで。
そう聞こえてたまらない。
コンクリートの道を走り抜けて、舗装されていない道を走り抜けて、草が生える道になって、ついに獣道になった。
低い木が生えている道なき道を走る。だが、俺を傷付けるかもしれない枝は風が先に曲げてくれるから当たらない。
びゅう、びゅう、びゅう、びゅう。
そして、ついに、視界が開けた。
開けたその先は、
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。