不自然な風だった。
いや、自然の理を無視した風だった。
吹いては止まり、また吹いては止まる。桜の花びらが空中で静止しているんだから、止まっているので間違いない。
そして、さらに不思議なことに花びら、いや、その風は俺の前にまで戻ってきてはまた吹いて止まるのを繰り返す。おいで、と言うように。
「は?え、…え?なに、」
いつの間にか人がいなくなった通学路。
桜の花びらでうっすらと色付いた風が、俺の周りで渦巻く。ひゅうひゅう、と吹きすさぶ音が耳の間近で聞こえる。
(え、もしかして、…また?)
不思議なことなら昔からよく起きていた。
運動会でリレーに出れば必ず俺にだけ追い風が吹く。俺にだけ、だ。他のライバル達には決まって向かい風だ。
紙飛行機を飛ばせば、俺のだけよく飛ぶ。それこそありえないほどに。
道に迷った時は風に逆らわずに進んでいけば毎回目的地に着くし、台風の日でも髪や服はそう乱れない。
それは決まって風に関係する。幼い頃は自慢げに両親に話したが、それは俺にしか起こらない現象だと分かるのにそう時間はかからなかった。
どうして起こるのかは分からない。なんの意味があるのかも分からない。ただ一つ分かることがあるとすれば、
(風が俺を傷付けることはない)
それだけ自信を持って言えた。
ひゅうひゅうと吹いていた風は、びゅうびゅうという凄まじい音に変わり、唸る。
吹いたり止まったりしていた風は、周りで渦巻く風に呑まれ見えなくなっていた。薄紅色の壁みたいなものが出来ていたが、それに触れようとすれば俺の指先を花びらがするりと避けていく。
そして、伸ばした俺の手を、
「ちょ、はぁあ!?」
風が強く掴んだ。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。