吊られた男の物語

裏切り



「聞いて下さいよ巡さん!!」













マンションの一室で仕事に勤しんでいると、ものすごい勢いでインターフォンが連打された。まるで殴りつけているかのような振動が部屋にまえ響いてきた。なんだよ。驚くじゃないか。


うっとおしいから無視してやろうと思ったのだが、画面の向こう側に見える姿と聞こえる声は懐かしいもので、放っておくわけにはいかなかった。



暗証番号を入力しロビーまで降り、待たせていた人物の手を引いて部屋に戻った途端、彼は口を開いたのだ。


そして文頭に戻る。













「あの女ムカつくんですよ!」
「へぇ」
「死ねばいいのに!今日だって!」
「そう」
「厚化粧で香水臭いし俺たちに媚売るし!雲雀さんに気に入られたからってセーラー服着て腕章付けて風紀委員気取りで校内うろついてるし猫撫で声ウザいし!ああ、もう!思い出すだけで鳥肌が!!」
「ふぅん」
「・・・・・・俺の話、聞いてくれてます?」
「耳には入ってるし聞いてるよ、右から左に通り抜けてるけど」
「巡さん・・・!!」













がくりと項垂れる少年。




沢田綱吉。
蜂蜜色をした、反重力の髪を持つ可愛らしい少年。










「あのオヒメサマ、可愛い性格してるよねぇ」









カタカタとパソコンをいじりながら笑うと、異常だとでも言いたげな綱吉君の視線が突き刺さった。

心外だな。
確かに俺は頭がいかれているが、裏世界のやつなんてみんなこんな感じだろう、俺だけじゃないぞ。

同年代の子たちから見るとすっごい不細工で嫌な性格してるんだろうけど、生憎俺はそういう輩なんて厭ってほど関わってきてるから特に問題ない。


これも経験の差だ。












「巡さんは何にもしてくれないんですか!
俺達はこんなに苦しんでるのに」
「だって関係ないしさー・・・うん、それに、“何も”は間違っているよ綱吉君。現に俺は、今もこうやって彼女について調べているのだから。なんなんですかアイツ!!」
「無理ですよ!ボンゴレでも分からなかったんですから」
「君は阿呆なのか?俺をボンゴレ如き表世界の人間なんかと一緒にしないでくれ。せっかく玩具を見つけたんだから隅々まで調べないと気が済まないね。それこそ起床時間から就寝時間までどこでなにをしているのか誰と関わっているのか何が好きなのか嫌いなのか趣味はなんなのか体重はいくらかアレルギーから何を食べたのかどこに寄り道をしたのか、瞬きの数から唾を飲み込んだ音まで聞き分けちゃう。どうでもいいけどスリーサイズとか。え、興味ある?綱吉君は彼女について知りたいことでもあるのい?」
「気持ち悪いです巡さん!」
「くくっ、海賊に悪党と言っているようなものだね。褒め言葉をありがとう」










姫路光。
とある機関に侵入したところ、彼女には戸籍がないそうだ。なんで並盛中学校に編入できたんだろう。謎だ。










「遠くから見ているだけもつまらないから、俺も並盛に行こうか」








キィ、と椅子を回転させて綱吉君の方を向く。
今まで会話してたけど画面に集中してて彼の姿は目に入っていなかった。








「来てくれるんですか?」
「暇だしな」








くしゃり、と綱吉君の顔が歪む。

そんなにあの子が嫌だったのだろうか?
変だなぁ、あんなに面白いのに。
手のひらをくるくる回っていると知りもしないで、箱庭の中で幸せそうに笑っているのを傍観していると腹を抱えて笑いたくなるというのに。



綱吉君の頭を撫でてやると、腰にしがみついてきた。


ふわふわの手触り抜群の髪をいじっていると、胸元に顔をすりつけてすんすんと鼻を鳴らす。
少しくすぐったいな。










「可愛いね、綱吉君。俺の嫁に来ないか」
「俺は男です。可愛いって言われても嬉しくないです。どうせなら巡さんの婿にして下さい」
「婿は無理だな、残念だ.愛人ならいつでも」






俺が身をよじると、綱吉君はパッと離れた。








「早く、並盛に来て下さい。おかしいんですよ、クラスだけじゃなくて学校全体が。雲雀さんはあの女の言いなりになっているしリボーンはファミリーに迎え入れようとしているし・・・九代目とヴァリア―の連中はイタリアにいるからまだ大丈夫かもしれないけど、いつ取り込まれてしまうか分からない。あの女がボンゴレに近付くたびに寒気がするんですよ」
「もうボンゴレは動かさない方が良いね」
「勿論、そのつもりです」
「表の世界は大変だね」
「ええ、だから、巡さんしか頼れないんです」




























「分かった、仕事を受けようボンゴレ十代目」






















困り顔も可愛いね、綱吉君



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