「最初から君は私を巻き込む気満々だったんだね?何を考えているんだい?家賊を巻き込んだら容赦しないよ、いくらで君でも―――」
「くくくっ、まぁまぁ、静かに。いいから大人しく拉致られてくれよ、いざとなったら零崎一賊全員守ってやるから」
「・・・まったく」
最低だね、と呟く声を無視してサイドミラーをちらりと一瞥する。
ちなみに、車内には俺と双識しかいない。
もったいないなんて言わないでくれよ?
一人しか使わないなら別に単車でも構わないが、職業柄(あんまり関係ないか)大きな車が必要になることがあるのだから仕方がないだろう?
双識君は俺と目を合わせようとせず、窓の外の流れる景色を見ていた。
なんだか焦っているようにも見える。実際そうなんだろうけど。
「人探しをしているんだろう?
大変だね、世間知らずな身内がいると。って、俺も人の事言えないけどサ」
「?何のことだい」
「おや、まさか何も知らないのか?俺が言っているのはあの顔面刺青君のことじゃないんだけどな」
「人識君?あの子なら、私には近寄ってくれないが家にいるはずだよ」
「呆れたもんだ、本当に何も知らないんだね。この俺を引きずりだしたのは、どちらかというと君達の方だ。顔も見たくなかったのだが、親愛なる父と妹にまで火の粉が飛ぶと危ないから、俺が出てこざるを得なくなったんだ。まったく、君達裏の世界の人間はこれだから嫌になる。零崎一賊は好きだけどね、みんな面白いから」
そういうものの、さほど口調は荒くない。
「まぁ、俺は退屈してたからまったくもって問題ないけど」
上機嫌にハンドルを回せば、頭上に疑問符を浮かべて不思議そうにこちらを見やる双識君がいた。
「だから、君は一体何の話をしているんだい?」
「ん?零崎を名乗る女の子が現れたのさ」「初めまして、あたし、零崎姫織っていいます!」
仕事を終えて帰る途中、何やら血腥い匂いが漂っていたから変に思って辿って行くと、その先に一人の少女がいた。
今はもう使われていない廃校。
彼女の足元には、おそらく屯していたであろう不良達だった肉塊が細切れになって、ある者は天井に吊られある者は内臓を抉りだされある者は四肢を切断され――――とにかく原形をとどめていない悲惨な姿で放置されていた。
太陽の落ちた薄暗い校舎の中に、彼女は死体を並べて立っていたのだ。
「妹は、“零崎舞織”の一人だけだろう?」
「確かに、うん、舞織ちゃんだけだよ。それに、少なくとも私は“姫織”なんて家賊は知らない」
「そうか、ならいい。零崎一賊ではないのなら、どうなってもいいだろ?」
「“あいかわじゅん”さん、またお会いしましょう!!」
そして彼女は姿を消した。
いつの間に?なんて知ったこっちゃない。
闇夜に浮かぶ金色の髪と、俺や潤のような赤い瞳―――だけど、その奥にはぎらぎらとした欲望が渦巻いていた。
「さぁてと、どうしてあげよう」
彼女は「自分は人類最愛だ」と口にした。
何と怖いもの知らずな小娘なんだろう。
無知とはいえ、言っていいことと悪いことの区別もつかないのか。
ああ、そうだ、忘れていたが、双識君を降ろしてあげようか。
せっかくだし、最高の舞台を用意してやろう