吊られた男の物語

人類最上たる君


“彼”は所謂嫌な人間だった。


人の嫌がることが好きで態度は良くても口が悪く、笑顔で罵倒し、気に入らないことがあれば好き勝手に暴れ、肉親である父や妹を放り出して姿を暗まし、密かに各国要人を操り世界を手玉に取っている―――いつの間にか「人類最強以上に厄介」と呼ばれるようになり、裏の世界のトップに君臨していた。




ある人物は言う。








「彼は神のようだ」と。






それに対して、彼は唇を三日月のように歪ませて、至極楽しそうに笑い、高らかに言い放つのだ。





「馬鹿か」と。





傲慢な人間だった。

良くも悪くも他人を見下していた。

けれど、それに見合う有り余るほどの力を持っていた。




むしろ、傍若無人な態度がすがすがしいまでにはっきりしていて、好感を持たれるのかもしれなかった。








――――人として何かが終わっているが。



































「やぁ双識君、暇かい?よければオニーサンとデートしない?」







針金細工のような体躯をしたスーツを身に纏う男性の前に姿を現したのは、にっこりと爽やかな笑みを浮かべている知人だった。




赤いセミロングの髪を顔の右端に寄せ、左側の前髪は邪魔にならないようにとの配慮なのか、見慣れた音楽記号の形をしたピンでとめてある。





特徴的な奇妙なスーツを着た彼も、針金細工のような男性と変わらず長身であった。









「おやおや?驚きで言葉も出ないかな?そりゃあ人類最上たるこの俺がいきなりでてきたらびっくりもするけれど、少しくらい反応を返してくれたっていいんじゃないか?酷いなぁ、泣いちゃうよ、傷付くよ、殺人鬼の長男君?」
「・・・久しぶりだね、紛い物の神<スケープゴート>」
「嫌だなぁ、こんな街中でそう言わないでくれ」
「私は忙しいから、君とデートしている暇はないよ」








“彼”が話しかけたのは、零崎一賊の長男である零崎双識だった。


双識は彼の姿を認識するや否や、普段は容易ことのない笑みを表情から消し去り、汚らわしい者を見るかのように白けた視線を送る。




相手が嫌がっていることを知ってか知らずか、おそらく前者であろうが、彼は酷く楽しそうに双識の腕を掴み、路肩に停めてあった愛車ベンツの助手席へと引きずりこんだ。ひょろりと長い腕のどこにこんな力があるのか、と思うくらい無理矢理だった。


彼の頬笑みが、にやりと邪悪に歪む。













「祭りだ、付き合え」





















彼の名前は“哀川巡





人類最強、赤い請負人である哀川潤の正真正銘の兄。

人類最悪、狐面の遊び人である西東天の実の息子。


同性ではないが同名。



表裏の世界を牛耳る、人類最上の極悪人。






“紛い物の神”
スケープゴート







その意味を知るのは、彼の仕事にかかわった憐れな人間のみ。









正直者が馬鹿を見るのさ、え?サディストだって?よしてくれよ、照れるだろう?



Modoru Main Susumu
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