笹川京子に懐かれた。
「哀川くぅん、校内案内してあげるよぉ」
「巡君は私と約束してたからゴメンね、姫路さん」
「哀川くぅん、お昼一緒に食べよぉ?ツナ達もいるしぃ」
「私達は零崎君と食べるから、ごめんね?」
「えー、でもぉ」
「ほら、ツナ君達が待ってるみたいだよ?早く行ったら?」
次のターゲットを俺に定めたのか、オヒメサマはことあるごとに誘ってきた。
面倒くさいから断ろうと口を開きかけると、必ずと言っていいほど笹川京子が横からひょっこりと出てくるのだ。
面白くなりそうだから黙認するけど・・・渦中に巻き込まれる寸前だからまだましだけど・・・
うん、懐かれたな確実に彼女が俺の代わりに断る度、オヒメサマの眉間には青筋が走っているのを見逃すわけがない。
おおかた、“なんなのよぉ!なんであたしの思う通りに行かないのぉ?”とでも考えているのだろう。
バレバレである。
そうそう、オヒメサマの騎士役に選ばれてしまった不幸な男子生徒諸君、憐れな引き立て役として傍にいることを許された女子生徒諸君、この俺を舐めないで頂きたい。
イレギュラーであるのは“姫路光”だ。
「星のリングをあのオヒメサマが?」
「そうそう、そうなんですよ。九代目も何をやっているんだか知らないけど、“星のリング守護者は姫路光で決定されている”しか教えてくれないんですよ。おかしいと思いません?次期ボスに何も伝えないってどういうことなんですかねー、俺は猛烈にそこら辺をしりたい。大体、あの女弱いですよ」
「あはは、イレギュラーの存在がそこまでボンゴレを引っ掻きまわすとはね、所詮ボンゴレもその程度ってことだな」
「・・・言い返せないのはムカつきますが、御尤もです」
星のリングなんて聞いたこともない。
トリップ特典とやらでいくらか設定を替えてもらったんだろうな、最強の力が欲しいとか美人にして欲しいだとか大富豪にして欲しいとか。
ただの人間ならトリップなんて非科学的なことを信じないと思うが、規格外な人間なんてここにはいくらでもいるしな。潤とか親父とか、理屈も常識も正論も通じない奴らであふれている訳だ。
俺がその代表格だしな。
市井遊馬の曲弦糸はギリギリ科学で説明できる。
理論上、どこでもド○だって作れるけど・・・・まぁ、数学的に見た話だ。
「巡さんは、傍観者なんですよね」
「そうだな、ボンゴレがどうなろうと俺には関係ないし。潰れようが吸収されようがどうだっていい」
「冷たいですよ・・・せっかく依頼したのに」
「依頼を受ける前に、“イレギュラーを排するのは俺の仕事”だ。ボンゴレのボスは君だろう、綱吉君。どうにかするのは君だ」
ぎゅう、と腰回りに強く抱きついてくる綱吉君。
「そういえば、ボスが一人でうろうろしててもいいのか?」
「山本達はあの女と買い物してますよ・・・獄寺君も、あんなんで俺の右腕を名乗っていたなんて吐き気がします。気持ち悪い。腹上死すればいいのに」
「こらこら、物騒なこと言うな。大体誰の腹の上で死ぬんだよ」
乾いた笑みを漏らすと、綱吉君は頬を膨らませて拗ねたようにそっぽを向いた。小動物みたいだ。
彼は心底、姫路光が嫌いらしい。
友人である獄寺隼人や山本武があちらにいるとしても、近づきたくないのだとか。舐めるような、値踏みするように纏わり付く粘着質な視線がどうしても受け入れられないのだとか。
彼は、血が騒ぐから、不吉だから、近寄りたくないと言った。
流石、ブラッドオブボンゴレの超直感。
大当たりだよ。
ボンゴレもオヒメサマの魂胆に気付かないのか、残念だな。
「人類最愛なんだって、前に本人が言ってたよ」
所詮は表世界の人間の癖に、下らないことを。
「よしよし綱吉君、そろそろ帰りな」
「・・・えー」
「帰れ。オレはこれから人と会う約束をしているんだ」
「うわ、妬けるなぁ。浮気ですか巡さん、俺という恋人がいながら・・・誰ですか?」
「恋人じゃねーだろうが」
「嫁に来いって言ったじゃないですか」
「冗談だばーか」
「ひっど」
「うっせ、裏世界の人間だよ」
さぁ、オープニングソングを大声で熱唱しようか