吊られた男の物語

カミングアウト






「ごめんね、全部気付いてたよ」








呆然とする人識君と笹川京子を前に、巡は悪びれた様子もなく言った。








「ぜ、全部?」
「うん、全部ね。笹川京子、情報では君が姫路光に虐められているとあったけれど、実際はその反対なんだろ?嘘っぱち。全ての人間は自分の騎士もしくは下僕だと思いこんでいる憐れなオヒメサマの喜劇に気付いて、それに勘違いしてのせられている脇役共に暴力振るわれてるけど全然堪えてない。てか、楽しんでるでしょ?この状況。ナニコレ面白ーい、って。むしろ俺様的にはそういう風に仕向けた風にみえるなぁ」














ははは、調べて行くうちに期待以上の事実まで発掘できたんだから儲けものだとほくそ笑む。

一般家庭に育った癖に、零崎の殺気を物ともせずに佇んでいる。
ただの少女であるはずがない。







「わぁ、すごいね、哀川君!」








素性やら調べ上げられたにも拘らず、とくに気分を害した様子もなくにこ!といつものように笑う。


何も知らなかったのか、人識君は固まったまま、動かない。











「姫路さんってね、男子に媚ばっかり売ってるんだ。まぁ、私は被害が来なければ放置しておくつもりだったんだけど、いきなり屋上に呼び出されちゃって。あれは気持ち悪かったなぁ、女の子の前だとコロッと態度が変わるんだもん」
「あははははっ、展開が読めるね。さしずめ

“愛されるのはアタシなの、逆ハーヒロインは皆のアイドルなんだから、あんたなんて邪魔なだけなの。アタシより不細工な癖に皆からちやほやされて、うざったいのよ!!”

って言って自分を傷付けて、それを君のせいにしたってところかな?」









姫路光の声を模写して、ふざけつつ言ってみた。
気持ち悪い。


まさに王道。
逆ハーヒロインになりたい?
ははっ、世迷言を、どの口でほざいてるんだか。









「本当にすごいねぇ。その通りだよ、ねぇ、どうして分かったの?」
「そりゃあ見てれば分かる。つっても、普通に“見る”んじゃなくて“視る”だな」
「“視る”?」
「覗かせてもらったんだ。読唇術や読心術とはちょっと違う。知り合いにそういうのが得意な奴がいて、昔教えてもらったことがあってな、便利だから使ってる。今度競馬場にでも行くか?」
「プライバシーの欠片もねぇな・・・」
「何か言ったかね人識君」
「イイエ、ナニモ」
「ふふっ、面白いね。・・・あ、そういえば零崎君も、姫路さんに似たようなことされてなかった?獄寺君も山本君も酷いよね」




フレンドリーな笹川京子は、巡のすぐ傍に腰をおろしてぽんぽんと乱れたスカートを整えた。

その足に青く変色している痣を見つけたのか、人識君は顔をしかめる。








「あぁ、そーだな。俺の場合は、告られて断ったら次の日からクラスメートっつーのが騒ぎ始めたんだ。あの不良君には煙草の火を押し付けられたな。バットで殴られたり。かはは、身内に釘バット装備してるのがいるけど、兄貴にも根性焼きは入れられたことねーからびっくりしたぜ」
「大方、襲われたとか言って泣きついたんだろうよ」
「笑いと呆れを通り越して泣けてくるぜ。誰があんなチビ襲うかってんだよ・・・だったらあのクソ兄貴と離島でサバイバル生活した方がマシだぜ。

地球上にあの女と二人きりになって人類滅亡の危機に陥ったとしても有り得ねぇ」
「ふふっ、零崎君ってやっぱり私の予想通りだね」
「笹川サンも性格わりーな。並中のマドンナがそんなに腹黒でいいのかよ?」
「なりたくてなった訳じゃないもの、興味ないしどうでもいいよ。笑顔でいれば皆も笑ってくれるし世の中上手く渡れるからそうしてただけ」
「・・・・・かはは、傑作だぜ」










この二人を見る限り、相性は悪くないみたいだ。



よかったよかった。
なんだかこんな予感がしていたんだよ。零崎特有の雰囲気っていうの?双識君みたいに家賊を気配で見つけるなんて芸当できないけど、“こうなるような予感”はしてたからさ。

すごいすごい、流石自分。
人類最上の名前も伊達じゃないな。









「笹川京子、キミは姫路光に対して何も感じていないね?」
「うん。っていうか邪魔」
「合格合格。ならここからは俺が仕切っていいか?人識君は嫌でも従ってもらうけど、キミは自由だ。キミ自身の意見を尊重しよう」









巡は立ちあがって笹川京子に近寄り、紳士のように跪いて、手を差し出した。








「俺は彼女に対して恨みはない。でも暇なんだ。ここにいる人識君とか他の人の物語はあらかた片付いてしまったし、この世界にはもうほとんどイレギュラーはいない。イレギュラーって知ってる?異物のことだよ。世界をめちゃくちゃにする、輪廻から弾かれた」









存在しちゃいけない存在




「決められた道をずらそうとする、異物。物事には運命というものがあって、それは絶対だ。自分がやらなくても“誰かが代替品になる”。関わった人間が誰であるにしろ、分かりやすく例えるなら、重要な歴史はほとんど変わらないってこと。宇宙だってブラックホールだって必ず見つかるし、ヒトラーの代わりに誰かがユダヤ人虐殺を支持してたのさ。



―――あぁ、話がずれたね。



イレギュラーってのは、運命を捻じ曲げるような存在を指すんだ。過去があるから今がある―――未来人が過去を、歴史を変えてしまっては、成立するものも成立しなくなってしまう。未来は誰も知ってはいけないということを、イレギュラー達は理解していない」













まだこのことは誰にも言っていないけれど、これは大仕事になりそうだ。





































俺はね、そういったイレギュラー達を排除するために存在を赦されたんだ

Modoru Main Susumu
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