生きにくい世界で二人きり
「3on3の勝ち抜き戦でいいですよね」
「ああ」
「俺が勝ったら、文句無しで下山してもらいます、レッドさん」
「うるさい、早くしろ」
「・・・その余裕、絶対に崩してみせますから!!」
投げられたボールは、同時に地についた。
こんな状況で僕とヒビキがバトルしているのは、ただ楽しむ為とか頂点をかけてとか、そんな理由じゃない。
僕は、どうしてもここに残ってクリアを探したかった。
「二人がかり、ポケモン達にも探してもらったが見つからないとなるともう諦めた方が良い」といったヒビキに、山を下りないと言い張って聞かない僕が出した条件。
“バトルで勝利した方の言う事を聞く”
負ける気は、ない。
だって、負けられないから。
クリアが行方不明だった?
ならどうして僕の目の前に現れた?
自分がこの山のどこかに居ることを伝えたかったの?
僕に会うことが目的だったから?
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!!!!!!!
生きていたから
僕に会うために、登ってきたんだ。
一緒にいる、そう約束してくれたんだ。
彼女は人をからかったりすることが大好きだけど、むやみやたらと嘘をついたりしない、ある意味でとても正直な少女だった。
馬鹿、といえばそれまでだが――――純粋で、人を疑うことを知らない清く澄んだ優しい人間だったのだ。
レッドは、そんな彼女を心の底から尊敬し、深く愛していた。
「レッドさん、クリアさんを探すのをやめて欲しいとは言っていません!!
ただ、下山して一度体勢を整えてからグリーンさんや四天王、ジムリーダーの皆さんの協力を仰いだ方が賢明だと言っているんです!!!マリルリ、ハイドロポンプ!!」
「リザードン、避けてほのおのうず」
「マリルリ!!うそだろおい・・・」
まずは、一匹。
そう呟くレッドの瞳にはヒビキの姿は映っていなく、澱みきった赤がガラス玉のように反射しているばかりだった。ヒビキはレッドの底冷えする低い声にぞっと背筋を凍らせながら、次のポケモンを繰り出した。
ああ、急がなければ。
クリアの声がする。泣いているんだ、きっと、あの子は。温かくて優しいから。もしかすると、陽だまりのような彼女には弱音を吐く暇なんてなかったのかもしれない。自分の支え。誰からも愛されていた彼女には頼る相手なんていなかったのかもしれない。みんなから頼りにされている彼女には泣いている時間すら与えられなかったのかもしれない。もしかすると、彼女は“強くなければ”なければいけなかったのかもしれない。みんなから好かれていたから、弱い姿を見せられなかったのかもしれない。
「ピカチュウ」
誰かが悪い訳じゃない。
でも、だからこそどうすればいいのか分からないから、彼女は皆に心配かけないようにずっと笑っていたんだ。
僕も―――その笑顔の裏に何が隠されていたかなんて知ろうともしないで、ただ知った気になって、共にあろうと願っていたのかもしれない。
ごめん、クリア。
「振り絞れ、ボルテッカ―」
今、君に会いに行くよ。
なんて、無力
(僕はこんなにも君に守られていた)