楽園はないと知っていた
結局、何日待ってもクリアが姿を現すことはなかった。
あの日、仲間がいなくなった、とヒビキに伝えると彼は真っ青な顔で「自分も探します」と言ってくれた。クリアのバッグは洞窟に置き去りにされたままで、彼女の手持ちたちも中に入っていた。帽子もコートもなくて、一体どこへ消えたというのだ。
僕とヒビキのポケモン達も協力してくれたけれど、何の成果も出せず時間だけが流れていった。
「嫌だ」
「レッドさん、いい加減に」
「嫌。僕は、クリアを見つけるまでここにいる」
とうとう食料が尽きた、ある日のこと。
洞窟内に散らばっていた荷物をかき集め持ち運びしやすいようにまとめているヒビキは、僕に向かって言い放った。
「もう、俺たちじゃ限界ですよ。山を下りて、応援を呼びましょう」
僕は背中で聞いているからヒビキの姿は見えないが、辛そうな、泣き出しそうな声だった。
ヒビキの言う通り―――僕も、彼もポケモン達も、すでに体力が限界に来ていた。
激しい吹雪の中を進むことは本当に困難で、飛ばされないよう穴に落ちないよう転ばないように注意して進むだけでも神経を削られる。
こんなに探しているのに、クリアは見つからない。
僕は岩肌に視線を向けたまま、口を開いた。
「クリアは戻ってくる。だって、“ずっと一緒だよ”って僕と約束したんだから」
「レッドさん・・・」
「死んでない。諦めない、絶対に見つける」
「レッドさん、聞いて下さい」
ヒビキは、彼女のコートを握りしめている僕の手をそっと掴んだ。
「俺、言いましたよね?シロガネ山に入ったトレーナーが行方不明になったって。昔の知人に会うためにそのトレーナーが山に入った後、大規模な雪崩が起きたんです。麓の方じゃなくて、もっと上からです。その人は緊急連絡用のポケギアを持っていたにもかかわらず、何度コールしても出ることはありませんでした」
「、ヒビキ」
「そのトレーナーはいろんな地方を回っていて、図鑑保有者で、バッジもたくさん持っていました。知り合いも多く、自然を生き抜く術を知っている、人とポケモンの繋がりを大切にする人でした。そんな人が―――吹雪く危険なシロガネ山に入るのに、電源を切っている訳がない」
「ヒビキ、言うな」
「言います、例えレッドさんを傷付けたとしても・・・真実を知らなければ報われないのは彼女です」
「ッ嘘だ」
ヒビキの言葉を聞きたくなくて、彼の手を振り払って耳を塞ぐ。
おかしいな。こんなに吹雪いているのに、とても静かだ。ヒビキの声しか聞こえない。元々寒さなんて感じなかったけれど、今はもう感覚もない。
あるのは、ぽっかりとあいた胸を占める恐怖と虚無感。
嫌だとまるで聞き分けのない子供のように首を振る僕の肩を、ヒビキは両手で押さえつけて無理矢理視線を合わされた。
「行方不明になったのは、マサラタウン出身の“クリア”さん・・・レッドさんとグリーンさんの幼馴染なんですよ・・・・・・!!!」
信じたくない
(約束、だって)
(言ってたじゃないか)