育つ花は悲しい色をしている

目の前には、悲しげに微笑んでいるヒビキの姿。







「やっぱり、レッドさんは強いなぁ」

「・・・」

「ごめんなバクフーン、ありがとう」






無言でたたずむレッドは、傷付いて動かない相棒を撫でるヒビキを、ひたすらに見下ろしていた。







「また負けちゃいましたね・・・あーあ、情けなさすぎてもう笑うしかないです。なんでこんな時までバトルだけは冷静なんすか、突っ込みどころ多すぎでしょ」

「・・・・・・」

「そんなに、クリアさんが大切ですか?」

「ああ」









その後の二人の間に会話はなく、ヒビキはレッドから手持ちポケモンの入ったボールを押し付けられ、「何も言わずに山を下りろ」という命令に従って、頂上から姿を消したのであった。



























いつもそばにいたピカチュウもヒビキと一緒に行かせてしまった。

ヒビキが去ってから吹雪の勢いが一層増したような気がするのは、きっと自分以外誰もここにはいないから、自然に立ち向かうのがまるで無防備な自分しかいないからだろう。
生活の跡が残らない洞窟の中に一人佇んでいると、奥の方から何やら音が聞こえてきた。







「・・・?」








たまごだった。

そういえば、確かに受け取った記憶がある。
もしかしてずっと放置されていたのだろうか。持ち上げてみると、僅かではあるが温かく、静かに脈を打っているのが分かった。












「クリア・・・」






適当な岩に登り、腰掛けてから卵を抱きしめた。
その温かさは、どこか彼女を思い出させた。
彼女からもらった大切なたまごを忘れていたなんて、自分は本当にどうかしてしまった。
本人ですら何が生まれてくるのか分からないと言っていたが、どんなタイプであれ生まれ出た場所がこんな殺伐とした洞窟など不憫すぎる。

もっと早く気付いてやれれば、ヒビキと一緒に行かせてやれたのに。
今更何を言っても後の祭りだが、せめて少しくらい寒さが和らげばいいと願って、かじかんで感覚の無くなった指に力を込めた。






























いつの間にか眠っていたらしい。
夢は見なかった。



外の吹雪は何故か穏やかになっていて、薄暗くなった空の間からはまばゆく輝く月がちらりと顔を出していた。





「夜・・・・・・」





そして、気付く。



腕の中にあったたまごが、無くなっていた。
慌てて立ち上がり周囲を見渡すと、近くの岩の陰に、不自然なふくらみを見つけた。







「・・・生まれたのか」







よかった、と心の中で思わず安堵のため息をついた。
岩の陰から、こちらを窺うようにびくびくと揺れる緑色の小さなポケモン。
オレンジ色の耳?角?らしきものをピコピコと動かす姿は可愛らしいが、見たことがない。どこの地方のポケモンだろう。






「おいで」






手を差し出せば、徐徐にではあるが近付いてくるポケモン――――拳に額をこすりつけてくるそのポケモンが“ラルトス”という種族だということをレッドが知るのは、大分先である。












暗闇に差した小さな光

(小さな命に)




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