女の子とお仕事








目が合えばバトル開始の合図とはよく言うが、賞金や経験値稼ぎのトレーナーでもない人間にとって、そんなルールは迷惑極まりないものだ。









「ああもう、全く、苛々するわね・・・」







額に青筋を浮かべながらヤグルマの森の中を歩くハイネの周囲には野生ポケモンの姿は一切見当たらない。

それもそうだ。伝説のポケモンに引けを取らないほどの殺気をほとばしらせている人間になど近付きたくはない。

何故気が立っているのか?
トレーナーからバトルを申し込まれ続ければいくら元気なトレーナーでも疲れてくるもので、しかもハイネの場合わざと視線を合わせているわけでもないのだから苛々するのも当然のことだった。








「うざったいわね、この辺一帯焼き払ってやろうかしら」








物騒なことを口走りながらも、やはり実行に移す気はないらしくポケモンの一匹も外には出していない。
口が悪いだけなのだが、吊り目がちな瞳をさらに細くし前方を睨みつけているのだからやりかねない雰囲気をだしているのだろう。



彼女の機嫌は非常に悪い。



先ほど述べたトレーナーとのバトルが理由だが、そもそもヤグルマの森に入ったことが始まりなのだ。

ハイネが森、しかもさりげなく人気の多いヤグルマの森に入るということは普段の彼女ならば絶対にない。けれど、これも仕事の一つといえば仕方なく入ることもある。

仕事ならば断れない。
いや断っても構わないだろうが、プライドの高いハイネにはそれさえも許せないそうな。




森に入って小一時間ほどたった頃、目的のポケモンを捕獲した彼女が出口に向かって歩いて行くのをじっと見つめている人物がいたことを彼女は知らない。


























ところ変わってサンヨウシティ。


賑やかな街中を横切って夢の跡地に向かうと、そこには既に依頼主である女性がムンナと戯れながら待っていた。






「・・・ごめんなさい、待たせたかしら」





足早に近づくと、女性はこちらを向きにこりと笑った。



「いいえ、全然待ってませんよ!!むしろ待ち合わせの時間に余裕があるくらいですし、それにこの子と遊んでましたから」

「貴女のポケモン?」

「いえ、野生です。何か知らない間に付いてきちゃったみたいで・・・」

「そう」







女性の頬にすり寄るムンナを微笑ましく思いながら、三つのボールが入った籠を差し出す。ヤグルマの森で捕まえたポケモンだ。

怒りを撒き散らしていたせいで見つけるのに苦労したが、ちゃんと指定されたポケモンなので問題はないと思う。








「バオップ、ヒヤップ、ヤナップを一匹ずつ、ヤグルマの森で捕獲したわ。性格、身体能力に問題なし。三匹とも初心者には扱いやすいレベルよ」






三匹はボールの中ですやすやと眠っている。






「ありがとうございます!
・・・毎回ごめんなさい、いちいちハイネさんにお願いしてしまって」






籠を手にしゅん、と頭を下げる女性。

指定されたポケモンの捕獲という仕事は、大量孵化や悪質な売買を防ぐため、博士といった人物から許可を得ないとできないよう定められている。
しかもジムリーダーやブリーダー、エリートトレーナーだからといって簡単に許可が貰える訳ではなく、ちゃんとした許可証を発行してもらわなければならないのだ。要するに、手間がかかる。









「気にすることはないわ、信用されてるって証みたいなものだもの。ヘタに乱獲されるよりよっぽどマシよ」







信頼と素質―――ハイネが信頼されているかどうかはさておき、見合った実力を持つ者が少ないのが現状。

主に依頼主が博士に相談し、捕えるポケモンの条件によってトレーナーへ話が行くのだが、今回のケースは博士――イッシュではアララギ博士が、新人トレーナー育成のためにこうやって動くこともある。マサラタウンではオーキド博士だったな、と懐かしく思った。


どの地方にも、一般の協力者が一人や二人はいるらしい。











「あ、そうだ、ハイネさん。これからお時間ありますか?」

「そうね・・・まぁ、ちょっとなら」

「よかった!じゃあお茶でもしませんか?ライブキャスターの番号が交換できないから、こんな時でもないとお会いすることもできませんし」






いつの間にかムンナがいなくなっていることに気付きもせず、女性は手を打つ。



そういえばサンヨウのジムはレストランも兼ねていることで有名だった。

美味しいものは嫌いじゃない。
紅茶だって好物の一つだ。
けれど、ジムリーダーがいるジムには行きたくない。正直、近寄りたくもない。

次の言葉に迷っていると、彼女は困っていると勘違いしたのか(実際合っているが)急にわたわたと慌てだした。









「も、もしかして用事とかありました?」

「え、いや」

「そ、そうですよね、私なんかとお茶しても楽しくないですよね・・・ごめんなさいハイネさん人気者ですもんね!あはは、すいませんなんか久しぶりにおしゃべりできたから舞い上がっちゃって・・・」







耳を真っ赤にして俯いたものだから最後の部分を聞きとることはできなかったものの、向けられる感情が悪いものではないことが分かる。








そう考えると―――







「・・・ふ」

「え?」

「ふふっ、」







突如笑いだした私に、彼女はきょとんと目を丸くした。








「場所が場所だから迷っただけよ?お茶は好きだもの、大歓迎だわ」

「そ、それじゃあ」

「場所を変えましょ。そうね、シッポウシティのカフェ、ソーコはどうかしら」










そう言うと、彼女はきらきらと瞳を輝かせ、嬉しそうに笑った。




















女の子って本当に可愛い





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