思い、想い、重い


私にとって、恋愛感情ほど必要のないものはない。
というか、信じられないのだ。好きだとか愛してるだとか、目に見えないことほど信用ならないものはないと思っているから。


捻くれている、と自分でも思う。
時がたち実際に恋人を作ってみれば何か変わるだろうか、と容姿に惹かれて近付いてきた異性数名と付き合ってみたものの、「盲目になるほどの激しい感情」が湧きあがることはなく自然消滅、もしくは私から別れを切り出す結末を迎えた。


嫌いという感情を持つことは少ない。
ただ、特定の人間に対して好意を抱くことがないのだ。

痴漢されれば流石に嫌悪感は抱くが、どちらかというと「罪を憎んで人を憎まず」とその行為自体を軽蔑し、それからはあっさり何事もなかったかのように過ごす。

付き合ってきた異性たちも、最初は自分のばっさりした部分を好きだと言ったが、やはり性別が男ということもあり本能からか身体を求めてくるのが恒例だったりする。勿論、何故致したいのか？と疑問に思い尋ねると奇妙な顔をされ、うろたえられるものだから私は興味を失くす。そして別れるのだ。




いずれは時間が解決してくれると思っていた自分の浅はかさがなんとも情けない。


他人に興味がない。
けれど自分に好意を持ってくれている人間といて居心地が悪いという事はなく、だからこそ告白を受け入れて付き合うのだが、別段心地よい訳でもなかったから破局してしまうわけだ。

性格が悪いのはもはや直しようがなかった。
自信過剰かもしれないが、人格が形成されるまでに周囲に彼女の性格と理屈を理解したうえで諭してくれる人間がいなかったのが一番の原因だった。



そのことを友人や知人に話すと、口を揃えて「いつか好きな人ができれば分かる」と言われた。




「ハイネは私が嫌いなの？」

故郷の友人の言葉が耳について離れない。
「好き？」と聞かれることはあっても「嫌い？」と問われたことはなかった。


彼女のことが嫌いだったわけではないのに、どうしてそう思われてしまったのかと不安になった。しばらく考えていると、何を勘違いしたのか、友人が泣き出してしまったのを覚えている。

まぁ結局は口数の少なさと表情筋の硬さが誤解を招いていたことが発覚し、和解するのだが。








長くなったが、ハイネとノボリの関係は同棲相手である。
“ただの”同棲相手である。間違っても“恋人同士”ではない。
普通の幼馴染が一緒に寝たりキスしたりするか？と思うかもしれないが、上記の通り不器用な彼女の精一杯の愛情表現だと思ってもらえればありがたい。




幼馴染の彼はとりあえず彼女の中で「特別」な部類にいて、それなりに傍にいてもらわなければ不安になる人物なのだ。




好きかどうかは分からないけれど。



「ノボリ、今日は何をする？

天気が良いからピクニックでもしようかしら、でもせっかく男手があるんだから布団を干すのも今のうちにしておくべきかしら？

あ、それとも少し遠出して果物でもとってくる？
今は何が旬なのかしら･･･ううん、好みに合わせてパイでも焼く？」

「それはいいですね、ハイネ様。ですがご自愛下さいまし、貴女様の身に何かあったらと思うとわたくし心配で夜も眠れません」

「うふふ、ありがとうノボリ。でも部屋にいても貴方の子たちは退屈じゃないかしら？」

「まさか！そんなはずはありません。昨日のバトルトレインでしっかり発散して参りましたので、そのような心配はないかと」









今は広いリビングのソファーに向かい合いながら座っているが、会話自体は恋人同士のそれだ。

もしここに彼の片割れがいたら、「どこの新婚だ」という突っ込みを貰っていたかもしれない。









「ストレッチでもする？ノボリはサブウェイ以外でバトルしないものね、調整する？」

「それは嫌でございます」

「あら、どうして？」

「戦うのはポケモン同士といえど、貴女様の愛する彼らを傷付けるのは、その、わたくしの良心が痛みますので･･･」

「愛する、ね」








私は自分の腰についているボールを軽く撫でると、自分が呼ばれたのかと勘違いしたらしいムウマージが別室からひょこりと顔を覗かせた。

相変わらず不気味な鳴き声を発しながら現れる彼女(ムウマージの性別は♀)に微笑みかけながら手招きをすると素直に寄ってきたので胸の赤い宝石を撫でてやった。










「それは嬉しい言葉だわ。ねぇムウマージ？」







ゲッゲッゲと笑う彼女の鳴き声は、同じゴーストポケモンである彼のシャンデラがドン引きするほど低く不気味だ。一応女の子･･･のはず。


バトルの際に対戦相手の顔を真っ青にさせるのが趣味らしいが、それでも長年の付き合いをしてきた私にとって慣れてしまえばどうも感じなくなる。

主人の性格がうつってしまったのかもしれない。



私とムウマージが戯れていると、目の前のノボリがこほんと咳払いをした。









「ということで、今日は、外出せずに布団を干しましょう。それから、まだ残っているオレンの実を使ってジャムを作ります。モモンの実も残っていたら使い切りましょう、傷みやすいですからね。それから･･･日向ぼっこでもいかがでしょうか？」

「あら、素敵ね」









そう褒めると、嬉しかったのかノボリは僅かに頬を赤くして俯いた。










「わたくし、ハイネ様と片時も離れたくないのでございます。ですから、せめて家の中だけでもお傍にいることを許して下さいますか？」








































これが恋心などと誰が言った？