それぞれの愛し方
人の愛情表現は本当に色々あると思う。
私の両親は幼いころに死んでしまったから慣れ染め話を聞いたことはないが、記憶の中ではいつも仲睦まじく、どんな異性が現れようと眼中になくお互い深く愛し合っていた。理想的な夫婦だったと言えるだろう。幼かった私は、自分もいつか素敵な男性と恋に落ち色々な苦難を乗り越えてめでたく結ばれ、子供を産み良い夫と子供、孫に囲まれ大往生するのだと夢見ていた。後半は子供らしくない生々しいものだと今は思うが、当時はそんな些細なことを夢見ていたのである。
私が何を言いたいのか、というと至って簡単なこと。
要するに百人いれば百通りの愛情表現があるということだ。
「ねぇ、起きて」
暗い部屋のカーテンを勢いよく引くと、寝ていた人物の顔に太陽の光がさんさんと降り注いだ。
「おはよう、気分はどう?」
私は布団にくるまりながら太陽の光から身をよじって逃げる彼ノボリの上に跨り、乱れた前髪を掻きわけて額に唇を落とした。
「ハイネ様・・・・?」
「おはよう、ノボリ。お寝坊さんね、もうお昼に近いわよ」
「え・・・・っな、ど、どうして起こして下さらなかったのですか!」
ノボリはうとうととまどろんでいた目を擦ると、今しがた私が言ったことを確かめるように枕元に置いてあった時計を掴んだ。
デジタル時計は、11時と表示している。
「なんてこと・・・!!」
「あら、別にいいじゃない?どうせ今日はお休みなんだもの。私とゆっくり過ごすって昨日約束してくれたじゃない。それともあれは嘘?」
「や、休み?私休暇などとった覚えはありませんが・・・」
「ふふふ、職場の方に連絡は入れといたわ。
・・・ノボリ、私と一緒にいたくないの?」
ノボリの頬に手を当て、耳に口を近付け囁くように息を吐きだした。
びく、と硬直したのをいいことに身体を擦り寄せて密着すると、寝起きには少々過激すぎたのか耳まで真っ赤になって目には涙が浮かんでいた。
もう一息かしら?と彼の潤む瞳を覗き込みながら口端を釣り上げて、もう一度、今度は頬にキスをした。
「あ、あああああ、ハイネ様っ」
「ねぇノボリ?私久々に休みなの。せっかくのんびりしていられるのにそこにノボリがいなきゃ意味ないし、それに寂しくて死んじゃうわ・・・他の人をこの家に入れたくないの、分かる?」
「そ、れは」
「私を他の男の人に触れさせたいの?」
「っなりません!貴女様はわたくしの大切な・・・ッ」
「大切な?なぁに?」
彼が寝巻きとして愛用している黒いシャツの胸元のボタンをぷちぷちと外していくと、男にしておくにはもったいないほど白くきめ細かい肌が現れる。する、と指で首をなぞるとノボリがふるりと身体を揺らした。
「ノボリ、私は貴方の何?」
「貴女様は、その、わたくしの恋人ではないのですか?」
「うふふ、まさか!強くて賢くて皆の憧れのサブウェイマスター?貴方なら分かるでしょう?・・・言ってくれないとご褒美あげないわ」
今の彼の心を支配しているのは恐怖?それとも欲望?
くすくすと私が笑えば、彼はあからさまに反応し、頬をさらに赤く染めて私から目を逸らす。けれど自分の体に私が乗っているから視界の端くらいには映っているだろう。
とても愉快だ。
薄暗い部屋でも分かるほど澄んだシルバーグレーの瞳に映る自分はとても醜いと思うが、そんな私に押し倒されされるがままの彼が美しくて、面白くて堪らない。
「ハイネ様・・・は、わたくしの大切な、同棲相手、でございます・・・・・・」
切なそうに言う彼の瞳から零れおちた雫を舐めとると、私はよくできましたと微笑んで唇に咬みついた。
恋人?
そんなものいらないわ、お互い身軽でいいじゃない