『今までありがとう。
転校生で右も左も分からない中、標準語の永四郎は凄く助けになりました。
永四郎のおかげで(と言うかテニス部連中のおかげかな)中学楽しかったよ。
私は東京に戻るけど、永四郎も元気で頑張って。』


という内容のメールを、私はさっきから読み返している
かれこれ20分だ
携帯の画面が暗くなる度にキー操作
明るくなって暗くなって、それを繰り返していたら

「アンタさっさと片付けなさいよ」

と私の部屋に入って来た母さんに言われてしまった

「わ、分かってる!」

母さんを部屋から追い出すと
沖縄を出なきゃいけない事を改めて実感する
私は、送信ボタンを押した

ものの数秒で、メールは相手の元へ飛んで行く
……確認する術は無いけど

まぁ、無難な内容だから心配はいらないと携帯を閉じながら思った
皆にもメールは送ってるし

私の思いは、バレていない
と思う

自信が無いのは、永四郎の勘が良いからだ
でも、向こうが何も言って来ないから
私は、友達で二年間過ごした

嬉しいと思う事も、苦しいと思う事も、悲しいと思う事も、沢山あった

それでも、比嘉中でやっていけたのは永四郎がいたからだと思う

……やたらと、恋愛脳な自分に辟易してきた

「あー……もう、でも、会わないし、な」

ごろりと寝転がって、自ら呟いた言葉に少しだけ泣きたくなった

永四郎からの返事も無いし

他に返事くれてないのは凛と慧
寛は携帯持ってないから電話で言った、恥ずかしかったけど
裕次郎と浩一と知弥はちゃんとメールを返してくれた

凛と慧は良いんだ
なんて言うと、悪い気がするんだけれど

大事なのは永四郎
こいつからの返事が来ないと、なんだか私はやっていけない気がする

寝転がったまま考えていたものだから、段々ウトウトしてきた
もう眠気に任せて寝てしまおうと思って、頭がぼんやりしてきた頃
何か音が聞こえた
ぼんやりした、明らかに寝ぼけている頭で音を追う

リズムを取って、頭で組み立てると
クラシックだと言う事に気付く
テンポが良くて、力強くて、好きな曲

永四郎に似ていると思った、ショパンの幻想即興曲

彼からかかってきた、電話の指定着信音


そこまで組み立てると私は飛び起きて携帯を掴む
慌てて携帯を開いて、通話ボタンを押して

「も、しもし?」
『名字くん、どれだけ待たせるんですか』

ふてぶてしい、永四郎の声
眠気なんてどこかに飛んでいってしまっている

「え、あ、ごめん?」
『……構いませんよ。
それより、メールありがとう』

私は目を見開いた
ありがとう、永四郎の口からありがとう!
電話だけでも嬉しいのに、私はもうニヤけるのを止められない

『ただ』
「え?」
『知念くんにだけ電話、と言うのが気に食わなくてね』
「……だって、寛は携帯無いじゃん」

いつもと変わらない調子でいつもは言わないような事を言う永四郎に、正直私は戸惑った
寛が携帯持ってないのは永四郎も知ってるはずだし、テニス部と仲が良い事だって永四郎のお陰だし

『携帯持ってればメールですか』
「……永四郎?」

声音は変わらない、けど
なんだか変だ

『何故、電話をしたと思っていますか』
「え……メールの礼?」

これでもかというくらいに大仰に溜め息をつかれた

「え、だって、え?」
『俺が、そんな律義な男に見えますか』
「うん」
『……まぁ、悪い気はしませんが』

どんどん訳がわからなくなっていく
永四郎からの電話ってだけで舞い上がりそうなのだから
ろくに物事を考えられないのかもしれない

『名前』
「うぇ」

名前で、呼ばれた
驚き過ぎて変な声が出て、永四郎は黙ってしまい
さすがに何か言われるかと思ったけど

『……もう突っ込みません、君は言わないとわからないんだ』
「え、なに、わけわからない」

いきなり、永四郎は早口になった
そりゃあ、言わなきゃわからない

『名前、君が好きだ』

何の事やらと考えていたから、その言葉を頭の中で組み立てるのが遅れた
組み立てて飲み込んで、私は何も言えなくなる

『……名前?』
「えっ、いしろ」
『なんですか』
「うっ、ううぅぅぅ……」

受話器の向こうの相手は相当驚いてるんじゃないだろうか
私自身驚いてる、何故泣く私

『ちょ、名字くん』
「やだ、っく、名前がい、っい」
『……名前』

開いた間の後、優しい声で私の名前を呼ぶ永四郎

『君は俺を好きでしょう?』
「わかっ、てるなら、きかなっで、よ」
『嫌です

……お邪魔します』

『「あらいらっしゃい! 名前は部屋にいるわよ」』
『はい』

やたら大声の母さんの声が、ステレオで聞こえる
これは、もしや

「『君の口から、聞きたいじゃないですか』」

私の部屋に入った永四郎は、そう言った
扉を閉めて、電話を切って、此方に向かってくる永四郎にどうしたらいいかわからなくなるけれど

「え、しろ」
「好き、と、二文字で良いんです。
名前が行ってしまう前に、直接聞きたい」

私の前に膝をついて
それしかわからない
涙で前が見えないから

「えいしろう」
「はい」
「……すき」
「知ってますよ」

待っていたと言わんばかりに、強く抱き締める永四郎のせいで私の涙は止まらない

別れなきゃならないのが辛いなんて思わなかった
これだけ行動力のある彼なら、心配なんていらない気がする

「大会で勝ち進んで必ず会いに行きます」
「うん」
「不安にさせるかもしれない」
「うん」
「信じてほしいとは言いません」
「大丈夫、信じる」

私が答えると、永四郎が抱き締める力が強くなる
それが嬉しくて仕方無い

「名前」
「ん?」
「好きです」
「うん、私も、好き」

顔なんか見れないから、永四郎がどんな顔をしてるかわからない
心地良過ぎて、夢かとも思う

でも、抱き締める力が強くて少し痛くて
その痛みで夢じゃないと自覚出来て

自然とニヤけるのを、やっぱり止められないんだ

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