「っていう訳でよ、どう思うよ永四郎」
「……どうして俺に聞くの」

わざわざ違うクラスから来た甲斐くんは俺の前の席に後ろ向きに座っている
何の話かと言うと、好きな相手の話らしい
半分聞き流したから、良く覚えてないけど

「だってテニス部で一番モテんだろ、キャ・プ・テ・ン」
「事実でしょ」

さらっと流すと、甲斐くんは何かを怒鳴り始めた
おそらく『わんだって負けてない』とかそんな事だろう
無視して教室を見渡す
面倒だから不知火くんに引き渡そうとしたのだが、彼は教室の扉に手を掛けていた
様子を見ようと思ったのだろうか、此方を一度見て俺と目が合う
引きつった笑みを此方に向けて、手を合わせて

『わるい』

と口パクで言って教室を抜け出した
部活の時に報復するとしよう

「聞いてんのか!」
「はいはい」
「……わんの好きな人の名前は?」
「名字くんでしょ」
「うわぁ声でけぇ!!」

声が大きいのはそちらの方だ
俺は溜め息をついて本を出す
途中まで読んだ小説だ

「んでよ、名前はでーじかなさんなんばーよ」
「はいはい」
「だけどわんと話してても他の奴と話してても変わらんけー」
「はいはい」
「……木手のアホ」
「誰が阿呆ですか」
「冗談、んでよ……」

小説を読みながら、はいはいとしか返事をしないから聞いてるかと思ったんだろう
阿呆と言われてはいと言う訳にはいかない
まぁ、その前後は聞いていないような物だけど

「って事、どうよ!」
「本人に聞きなさいよ」
「出来たらそうしてるっつーの……」

俺の机に肘をついて唇をとがらせる甲斐くん
そろそろ本当に邪魔だと思い始めた
俺は小説に栞を挟んで置くと、立ち上がって甲斐くんを残して足早に隣りのクラスに入る

「名字くん、いますか」
「はーい、木手くんどうしたんばー?」

パタパタと小走りで寄って来た名字くんは俺を見上げた

「俺のクラスに甲斐くんがいるんですけど、話したい事があるそうです」
「へー、何の話?」
「わかりません、とりあえず連れて屋上にでも行ってもらえますか?」
「あーい」

素直なのは名字くんの美徳だと思う
まぁ、俺が彼女を好きとかとは違うけれど

「ゆうじろーくーん、何の用事ー?」

間延びした言葉を引き連れて1組に入っていく名字くん

「名前!?」
「屋上いこー?」

教室の扉の前に来ると、丁度出て行こうとしている所だった

「えっ、永四郎おま……!」
「はいはいいってらっしゃい、名字くん、甲斐くんの事よろしくね」
「? 分かったー」

にへらっと気の抜けた笑い方をする名字くんは、甲斐くんの手を握って屋上へと連れて行った

俺は、やれやれと思って席に戻る

大体甲斐くんも気付くべきなんだ
確かに名字くんは皆に変わらず接して居るけれど

あぁして手を繋いだりはしない

何かと近付く甲斐くんに対して、スキンシップを取っている
端から見てわかるかと言われたら微妙だが

俺は気付いてしまったから

こうして、部員の相談を解決するのも主将の仕事と思って送り出しただけ

甲斐くんさえ居なければ、本の続きも読める

このあとどうなったかは、多分また休み時間にでも甲斐くんが伝えにくるでしょ

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