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「モナからよその子の匂いがする……」
「ぎにゃっ」

無遠慮に前足から持ち上げられたかと思えば、双葉が鼻を埋め込むようにしてふんふん嗅ぐ。遠慮のないそれに人権だとかを叫んで訴えても当たり前のように無視され、遂には勉強していた蓮に物のごとく差し出され、こちらは流石に距離を開けてふんふん鼻を鳴らされた。どちらにしろ屈辱である。ルブラン店内であればこの狼藉もなかったろうに、ご主人が上で寛いでろなんて気を回してくれたからこんな目に、いやご主人は悪くない。悪いのは目の前の学生ふたりでしかないと考えを改める。

「本当だ……石鹸が違う?」
「当たり前だろ!よそで洗ってるんだから、こ、こら双葉どこに鼻突っ込んでんだよ!」
「ふむ、肉球はいつもの匂いだな」

むしろ肉球を嗅がれた覚えなんぞないのだがそこは掘り下げたらやぶ蛇だ。
ついには断りもなく肉球を揉み始めた双葉と攻防を繰り広げていれば、我らがジョーカーが妙に含みのある笑い方をしていたもので、休戦というか休憩をしながら双葉とそちらを見る。

「なんだよ、急に笑って」
「いや。あの明智が、猫洗うんだと思って」
「確かにテラシュール」
「ま、雑だな。自分の使ったタオルで拭こうとしてくるし、何回も溺れかけてっし」
「どっちも元気そうで良かった」
「……おう」

気恥しいというか、僅かに悲しいというか、誇らしいというか。そのあたりのごちゃごちゃの感情で中途半端な返事をして、また肉球を狙い始めた双葉の手から逃れるように床に下りた。

「そろそろアイツの用事も終わったろうし戻るな」
「モナ、すっかりアイツ色に染まっちゃったな……」
「言い方ヤメロ!」
「いってらっしゃい」
「……おう!」

二階の窓から外へ出て、慣れているけれども少し景色の変わった道を早足で辿る。おかえりとも言わない無愛想な同居人の元に、仕方なく帰ってやるために。



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