好奇心は猫をなんちゃら


「名前、なんていうの?」

頬張っていたポテトが喉のどことも言えないところに入ってしまい、うつ向いてげほげほ情けなくむせる。なめらかに美鶴が差し出してくれたジュースのストローに口をつけて、落ち着いた頃を見計らい妙に楽しそうな美鶴が「で、名前。あんたって呼ばれるのがいいかは知らないけど」と逃げ道をさらりと塞がれる。
名前、名前。芦川不二子だなんて言おうものなら後世までバカにされることであろう。いや大袈裟じゃなく。名前、偽名、ええとええと、あ、snsとかのやつ使えるか?いや、ああもう適当でいいや。いっそあんたでもいいや。

「那須川たか子、です」
「ふうん、俺は芦川美鶴」

存じておりますとも、とも言えずに芦川さんですねと繰り返せば、美鶴でいいと言われてしまいさらに困る。ぼろが出そうで怖いですよそれ。ええと、じゃあ美鶴さんとか呼べばいいだろうか。今の私は年下設定だし。いや、今日限りの関係なのだし何とかなるだろうか。

「東高、だよなその制服。今日部活?」
「あ、そうです」
「何部?」

なんでそんなに積極的なの、なんか嘘が嘘を呼ぶんですけど……!と内心怯えながら無難に「テニス部です」と答える。流石に私の高校時代の部活だとかにしたら怪しまれるだろう。顔も部活も声も一緒だとか怪しすぎるだろう。あんまり突っ込んだ質問をされるのを防止するためにも全力で話題を代えようと「美鶴さんは大学生ですか?」と話を振ってみたけれども手応えは薄い。

「うん。一般的な大学生。特筆することもなし」
「ええ、なんですかそれ」
「ドタキャンをものともしない同年代の集う場所だよ」
「……怒ってます?」
「別に。こっちの方が面白そうだし」
「はあ……」

面白いんかなぁ、と疑問に思いながらまた食べかけのハンバーガーに噛みつく。いつものお味に安心しながら咀嚼していれば、「このあと予定ある?」と訊かれて素直に首を横に振る。直後に後悔するのだけれども。

「ならちょっと付き合って。俺夜まで暇だから」
「え、いやでも」
「暇なんだろ?」

言質をとられていては強く逆らえず、というか、あまり喋ってはばれてしまうのではというのが恐ろしくてアタフタしているうち「はい決まり」とさらりと予定を決められてしまい、あれよあれよという間に映画館に連行されて適当な映画を見てそのまま時間が時間だからとファミレスでご飯を食べながらぽそぽそと感想を述べあった。無難なアクションものであったのでまあまあ面白かったし、ご飯奢りらしいし、なんというか、そつがない。慣れているようだ。
ううん、と複雑な気持ちになりながらパスタを巻いた。ああ、ベーコンを取り逃がした。

「来週空いてる?」
「どうしてですか?」
「デートしたいから」
「あ、空いてません」
「空いてるな」
「いえ、でも、えええ」
「じゃあ来週の今日と同じ時間だと……一時か。一時に駅前の銅像集合ね」
「や、でも」
「来るまで待ってるから」
「え!ええ!」

どうやって断ろうかぐるぐる考えているうちにも会計を済まされてしまって、あれよあれよと駅まで送ってもらい精神が弱りきった状態で何とか友人の家に逃げ込むと、こちらはこちらでとても楽しそうな友人が私の服とか荷物だとかを片手にによによと笑って出迎えてくれた。

「ねえねえ、あのあとどうなったの?帰るの遅かったわね、ねぇ、どうしたの?」
「……聞いて!包み隠さず愚痴るから!あああもうやだああああ!」
「うん聞くけどもう遅いよ?美鶴くん心配しちゃうよ?」
「あああそうだった着替えてメイク直して帰らないと……もう今日は徹夜で愚痴るから!聞いて!電話出てよ!」
「それくらい耐えるわ!面白そうだもの!」

無駄なガッツを見せる友人に容赦は要らないだろう。大人しくしていたツケか喋り足りない気持ちのままに急いで身支度を整えて、来週の事だとかを考えてさらに叫び出したくなった。もう嘘つくの嫌だ。疲れる。



14.03.09

bkm

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