コスプレではないと言い張る


大学からの友人が引っ越すというので、近場というのもあり手伝いに収拾されたのだけれど。けれども。

「何で高校の制服持ってきてるん……?」
「いいじゃない、色々使えるしね」
「色々?って?」
「色々よ」

ふふふふ、と重々しげに笑う友人にこれ以上突っ込むのはいけないと制服だとかの入っている段ボールは彼女に任せて次の段ボールを開けようと背後を確認する。けれども、背後にはあと小さめの箱がいくつかあるだけで、しかもそれには下着だとかとてもプライベートなものばかりで、「うん、大体終わったねえ」と宣言した友人が背を伸ばしながら立ち上がったので同じように背を反らした。

「手伝ってくれたお礼もかねてさ、外に食べに行こうよ。この辺の店も確認したいし」
「やったー奢りじゃあ!」
「喜び方があからさま過ぎるでしょ」

はあ、とあからさまに呆れたようなため息をついた友人は突然段ボールを見、私を見比べるように見て。

「……不二子って結構童顔だよね」
「いやいや女子高生の制服は流石にね痛いからって痛いやめて肩掴まないで離してえええぇ」
「ほら機会がないとこういうのって着ないじゃんか」
「いやいやここの高校ってそもそも顔の偏差値高いとこじゃないですかいやぁぁあ」
「着て出掛けてくれたらデザート付けてあげるよ」
「……!」

甘党である私に断れるはずもなく、せめてばれないようにと普段は付けないつけまだとか濃いめのチークだとかで偽装工作し、ついでにと謎のテンションの高騰のままに髪をコテでくるんくるんに巻いてもらいまして、だいぶ見覚えのない感じに仕上げたところで時計を見ればちょうどお昼時だ。空腹だ。なんかもう恥ずかしいとかどこかに行きかけている。

「うん可愛いよ不二子!普段のメイクと違うから遠目ならばれないって!」
「あ、ばれない?いける?じゃあここの近くにカフェあるんだけど行く?」
「慣れるの相変わらず早いな」
「腹減ったともいう。よしそうと決まれば行こうか」
「あ、待ってショートブーツ出すから。鞄はこれね」

ここまでくれば妥協は出来ない。大人しめギャル系トータルコーディネートが終わったところで、「私自身の準備終わってないし!」と叫んだ友人の準備が終わるまで大通りで立って待っていろとのお達しを受け、どうせなら今の女子高生の仕草だとかを習得しようと思ったのはよかったのだけれども。道端でぼんやり人間観察に勤しんでいるうち、大学生とおぼしき男性二人に早速絡まれた。女子高の制服の威力ったらない。
絡まれたこと事態が少ないために、対処法もわからなくてもう本当にどうしたらいいのか。
ともかくはどうにかやり過ごそうと思うけれども女子高生らしい対応なんて知らなくて、それよりもボロがでないようにと必死に大人しめに振る舞う。けど、あれ、逆効果な気がじわじわしてきた。

「あの、友達と待ち合わせてるんで……」
「友達?何人?」
「一人ですけど……」
「あ!ならちょうどよくね?一緒にカラオケ行こうよー、遊ぶなら人数多い方が盛り上がるしさ!」

同年代のネアカならそうだろうな!と心の中で叫びつつもなんとなく怖くて強気に出れない、駄目だチャラ男怖い。昔ギャルをやってたらしい友達に助けを求めようかと携帯を手探りで探そうとしたけれども焦っているからか見つからず、途方に暮れ掛ける頃にはチャラ男の私に近い方が手を伸ばしてきて、あああ連行される……!と思い切り目を瞑って身を固くした。肩を叩かれて、思わず体が跳ねたけれども直後に聞こえた声は知り合いのもので。

「ごめん、待たせた」
「え!あ、う、ううん」
「えー、友達って男かぁ。ならいいわ、じゃあね」

なんともあっさりと引き下がった二人はささっと見えなくなり、恐らくは次の獲物を探しに行ったのだろう。いやそれよりも問題は助けてくれた彼だ。美鶴だ。どこからどう見ても遊びに行くと今朝見た美鶴が私の腕を引いてはあ、と息をついていらっしゃる。一番見つかりたくなかった人物に見付かったわけだけれどもそれより美鶴かっこいい!困ってる女の子助けるとか少女漫画か!素敵!抱いて!

「なにやってるんだ、叔母さん」

ばれてたあああいやでもメイクしてるし、いつもの就活メイクに毛が生えたようなのじゃなく睫毛つけてるし髪巻いてるし誤魔化せないかな、いや誤魔化そう。いける気がする。女子高生コスプレがばれてたまるか。先程までの人間観察に友人の仕草、それらを総動員してなんとか女子高生っぽく話してやろうと訝しげにこちらを見ている美鶴を見返す。よし、乗りきってやる。

「あ、の……。助けていただいてありがとうございます。あの、でも、叔母さんって……?」

私だと決めつけてかかっていたらしい美鶴がキョトンとして、次にばつが悪そうに「ごめん、人違い」と苦笑いする。いえ、と私も苦笑いしつつ全力で安堵した。よしごまかした。あとは敬語を徹底してきゃぴっとすればいける。

「待ち合わせしてるんだっけ」
「あ、はい。もうすぐ着くと思うんですけど」
「そう」
「えっと、あなたは時間とかは……」
「暇だから気にしないで。あんたまた絡まれそうだし、俺が立ってるだけでもまましだろ」

つまりは、私の安全確保まで付き合ってくれると。こんなに親切出来る子だったのね、と感動しつつようやく鞄から携帯を開けば、友人からメールがタイミングよく届いた。「美鶴くんに見つかるとかwww」見てやがったな、むしろ楽しんでるな友人どこだ!
隣でぼんやりと待ってくれている美鶴のためにも「笑うとこ違う!何とかして!」と即座に送ったのはいいけれど「もしかしてばれてないの?うっそぉ?」と返信はどことなく楽しそうだ。更には「きゃー急用でいけなくなっちゃったー」とのメールが着て、もう、諦めた。こんなに楽しそうなことを友人が見逃すはずがない。

「ドタキャンされました……」
「あんたも?一緒だな」
「え、あなたも?」
「そう。それで暇なんだけど」

はあ、とお互い息をついて、何とも気まずい空気になる。いやこれどうするの。どうしたらいいの。
気まずさに目をうろうろ泳がせていると、美鶴が腕時計をちらりと確認する。さっき携帯で見た限りは今は一時になるかならないかくらい。

「昼食べた?」
「まだです、けど」
「じゃあ、何処か入らない?休日に一人で食べるのも虚しいだろ」
「えっと……」

あんたは初対面の女の子を食事に誘うのか!いや意見はごもっともだけども!ていうか、こんな、紳士に振る舞う美鶴なんて知らない。ばれないためには素早く離れて友達をどつきに行くのが正解なんだろうけれども、美鶴が私のいないとき、同い年くらいの子とどんな風に話すのか非常に気になる。うーんと唸って、項垂れたついでにくるくるにセットされた髪が目に入って、決意を固めた。大丈夫だ今日だけだ。こんな風に美鶴と話せるならもうちょっと。

「えっと、じゃあ私でよければ……助けてくれたお礼もしたいです」
「よかった。希望とかある?」
「いえ、お任せします」

そう、と頷いてゆっくり歩き出した美鶴のあとを追いながら、やっぱないかなぁ、と小さく後悔した。まあ、今日だけだし。



14.01.31
〜14.02.13追加

bkm

サイトトップ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -