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『……ねえ、大丈夫?鉄朗なんでそんなボロボロなの?』

「愛の為に体張ってきた…」

『全然意味わかんないんだけど。』





クラスメイト達にもまれていた黒尾が片隅に居た道香を見つけヨロヨロと歩いてくる。胸に飾られた花を心なしかくたくたになっている。

ちなみに言えば、やってきた瞬間夜久と海から何故か殴られ目を白黒させていた。





『みんな揃ったし部室行こっか。』

「おー。だいぶ待たせちまったな。」

「研磨辺りが待ちくたびれてんだろうな〜」

「はは、文句言われそう。」





赤いジャージではなく制服に身を包んだ4人が肩を並べて歩き始める。胸元に飾られた花が風で揺れ、その存在を主張しているようだ。

涙ぐむ他の卒業生や別れを惜しむ下級生を横目に、雑談をしながら足を進めて。

全てが始まったあの時から、こうして共に歩いてきた3年間は本当にあっという間だった。





『………なんかみんなの足見てたら泣きそうになってきた。』

「は?」

「ツボおかしくね?」

「さっきまで大丈夫って言ってたのに。」

『一年の時よりみんな足おっきくなってるじゃん?成長感じてさ。あ、夜久はあんま変わんないかも』

「ア゛?」

『嘘だってごめん』





顔を上げた道香の目には、言葉通りじんわりと滲んだ涙の膜。本当にどこに涙腺を刺激されているのかと思う黒尾だが、そんな道香自身も一年の時に比べれば随分成長してるだろと返す。

身長や見た目はもちろん、中身だって。





「おいおい、何2人の世界入ってんだよ。今はオマエラが成長感じて感動してる場合じゃねえっての。」

「ほら黒尾、スピーチの練習しなよ。」

「スピーチ?は?」

『あー、最後だしね。みんな号泣するやつお願いね。』

「そういうのって前もって言うヤツなんじゃないの?」





夜久か軽く黒尾の背を叩いたことによって、見つめ合っていた道香と黒尾の視線が外れる。そのまま海の言葉に道香の意識が別のことに向けば、センチメンタルな雰囲気が消え緩い空気が流れ始めた。

卒業するのだと頭でわかっていて、他人事に感じることはなくなったけれど。明日からここに来ないなんて想像がつかず道香はじっと自分の足もとを見つめた。

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