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「……」
『あ、やっぱ夜久泣いてんじゃん。』
「うるせー泣いてねえ!」
『流石にそれは無理があるでしょ(笑)』
「鼻水も出てるし。」
『ほら、海がこう言ってんだよ?』
無事に卒業証書を受け取った。涙ながらに思い出を語る担任に、この3年間の思い出が溢れたクラスメイト達は啜り泣く者も少なくはなくて。もれなくその中に入っていたらしい、案外涙もろい夜久は道香にからかわれ不機嫌そうに眉間に皺を寄せた。
クラスで記念撮影をして、それぞれ教室を出る。今は門に向かう途中で別れを惜しむ生徒達に混じり雑談をしていた。
必ず泣くと思っていた、なんて海に言われ、道香はケラケラと笑う。
『ここ最近泣いてばっかだったもん。どうせ後でみんなの顔見たら泣いちゃうし、酷い顔にならないように我慢してたの。』
「賢いのかバカなのか」
『ちょっと海聞いた?ひどくない?女の子の気遣いをバカって』
「写真に残るもんなあ。そういえば黒尾は?」
『なんか男子に胴上げされてたから置いてきた。』
軽く流されたことにも気付かず、海の質問にしれっと答える道香。その様子は彼らが付き合う前となんら変わりない。
ふわりと、風で道香の髪が揺れる。
「…道香、髪伸びたな。」
『え?ああ、うん。もう癖付く長さまできたよ。』
「伸ばすの?」
『今のとこその予定。』
緩く巻かれた鎖骨より下まで伸びた道香の髪。ふっと柔らかく笑う道香の横顔は、少しだけ大人びて見えた。海がずっと見てきた道香とはまた違った雰囲気なのはきっと髪型の所為だけではないだろう。
いつも通りに感じても、やはり彼女は"女性"らしくなっている。
「黒尾の為に?」
普段ならからかいを含んだその言葉。道香もそう思い頬を赤くしながら海を見ると、その表情はひどく優しくからかいなど一切含んでいなくて。
思わず息を飲んだ後、照れ臭そうに笑う。
『……うん。』
幸せそうな、嬉しそうな、恥ずかしそうな。素直な彼女は可愛いと、部員達の間でも専らそう言われてきているが。今ばかりは海も夜久もどきりと胸が鳴る程に優しげで女らしい表情だ。道香が真っ直ぐに黒尾を思う気持ちが痛いくらいに伝わる。
黒尾が、少しだけ羨ましくなった。
「………やっぱあとで黒尾殴るか。」
「賛成。」
『何?内緒話?私も入れて』
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