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「そういえば、ね」

ようやく涙も止まったところで、私はさっき歌舞練場から気になっていたことを思い出した。

「私がポケモンの言葉がわかるのは、多分、その……おとう、さん、の血が流れてるからだと思うんだけど……どうして蒼衣たちは擬人化することができたの?」

言葉がわかるのはそれで納得できるけど、擬人化するのは血では納得できない。
すると、お父さんは私の頭をぽんぽんと叩いた。

「呼びにくければ千晃でいい。そうだな……お前がこっちに来たとき、一人にならないように、だな」

「え……?」

つまり、それは。

「お前に友達ができるように……と、思ってな。何かきっかけがあれば、そうなるようにしたんだ」

きっかけ……つまり、飴。

「千晃さんはね、これで心配性なのよ。ずっとカナエの身を案じていてね、」

クスクスと笑いながらお母さんが口を挟むと、お父さんは少し罰が悪そうに苦笑した。

……そう、"お父さん"。
まだ呼び慣れないけど、ちゃんとそう呼びたいから。
そう伝えれば、お父さんは「そうか」と言って、微笑んだ。

そして、これは今思い付いたことなんだけど。

「あと、ね。昔から雨が降ると頭痛がひどいのも……もしかして、」

小さい頃からずっと悩んでた、雨の日の頭痛。
すると、お父さんは少し考える素振りを見せてから口を開いた。

「もしかしたら……そうかもしれないな。私は炎の性質を持っているから、その血を引くお前は無意識で雨を嫌っていたのかもしれない」

「そっか」

そう聞いたら、長年嫌だったこの頭痛もなんだか好きになれそうだ。

改めて2人を見れば、お父さんの赤銅色の髪とお母さんの漆黒の髪。
光に当たると紅に染まる私の髪は、その中間。
この2人の血をちゃんと引いてるんだなぁ……なんて。

そんなことを考えていたら、突然お父さんはスッと表情を引き締めて私を見据える。


「カナエ、これはお前にとって大事なことだから、よく考えて結論を出して欲しい」

途端に、蒼衣たちの空気が張り詰めたのがわかる。

ごくり。

生唾を飲み込む音が頭に響き、心なしか脈拍が上がった気がする。
お父さんは「いいかい、」と前置いて、口を開いた。

「お前はこちらで生まれたとはいえ、向こうで育った。しかしお前がそれを望むのなら、こちらで生きることもできる。無論、向こうに帰りたいというなら、少なくとも私は無理に引き留めることはしない」

覚悟はしていた。
でも、改めて問われると気持ちがゆらぐ。

「……少し、考えさせてもらってもいい?」

「もちろん。大切なことだ。後悔しないようにしなさい」

私は頷くと、蒼衣たちのところへ足を運ぶ。
すると、せきが切れたようにみんながわっと寄ってきた。

「カナエ……貴女、」

「話聞いてたとはいえ、改めて言われたら……な、」

「うん、ちょっぴりびっくりするわよね」

「ねぇ、カナエ。アンタはどうする……いや、どうしたいのよさ?」

「そりゃ、俺らとしては帰って欲しくないってのが本音だけどさ」

わかってる。
これは、私が決めなくちゃいけない問題。

「カナエ。僕らはカナエがどちらを選んでも、それについて口出ししない。でも、ひとつだけ」

蒼衣は一度そこで言葉を区切る。


「僕らは、どこにいても繋がっている」


蒼衣のその一言で、悩んでたすべてが吹き飛んだ気がしたんだ。

「ありがとう、みんな……!」

これは、私の出した答え。
この答えが正しいかなんて、わからない。

「お父さん、お母さん。私……ね、」

もう、決めたから。



「ここで生きるよ」
「やっぱり、元の世界に帰りたい」


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