4 「そういえば、ね」 ようやく涙も止まったところで、私はさっき歌舞練場から気になっていたことを思い出した。 「私がポケモンの言葉がわかるのは、多分、その……おとう、さん、の血が流れてるからだと思うんだけど……どうして蒼衣たちは擬人化することができたの?」 言葉がわかるのはそれで納得できるけど、擬人化するのは血では納得できない。 すると、お父さんは私の頭をぽんぽんと叩いた。 「呼びにくければ千晃でいい。そうだな……お前がこっちに来たとき、一人にならないように、だな」 「え……?」 つまり、それは。 「お前に友達ができるように……と、思ってな。何かきっかけがあれば、そうなるようにしたんだ」 きっかけ……つまり、飴。 「千晃さんはね、これで心配性なのよ。ずっとカナエの身を案じていてね、」 クスクスと笑いながらお母さんが口を挟むと、お父さんは少し罰が悪そうに苦笑した。 ……そう、"お父さん"。 まだ呼び慣れないけど、ちゃんとそう呼びたいから。 そう伝えれば、お父さんは「そうか」と言って、微笑んだ。 そして、これは今思い付いたことなんだけど。 「あと、ね。昔から雨が降ると頭痛がひどいのも……もしかして、」 小さい頃からずっと悩んでた、雨の日の頭痛。 すると、お父さんは少し考える素振りを見せてから口を開いた。 「もしかしたら……そうかもしれないな。私は炎の性質を持っているから、その血を引くお前は無意識で雨を嫌っていたのかもしれない」 「そっか」 そう聞いたら、長年嫌だったこの頭痛もなんだか好きになれそうだ。 改めて2人を見れば、お父さんの赤銅色の髪とお母さんの漆黒の髪。 光に当たると紅に染まる私の髪は、その中間。 この2人の血をちゃんと引いてるんだなぁ……なんて。 そんなことを考えていたら、突然お父さんはスッと表情を引き締めて私を見据える。 「カナエ、これはお前にとって大事なことだから、よく考えて結論を出して欲しい」 途端に、蒼衣たちの空気が張り詰めたのがわかる。 ごくり。 生唾を飲み込む音が頭に響き、心なしか脈拍が上がった気がする。 お父さんは「いいかい、」と前置いて、口を開いた。 「お前はこちらで生まれたとはいえ、向こうで育った。しかしお前がそれを望むのなら、こちらで生きることもできる。無論、向こうに帰りたいというなら、少なくとも私は無理に引き留めることはしない」 覚悟はしていた。 でも、改めて問われると気持ちがゆらぐ。 「……少し、考えさせてもらってもいい?」 「もちろん。大切なことだ。後悔しないようにしなさい」 私は頷くと、蒼衣たちのところへ足を運ぶ。 すると、せきが切れたようにみんながわっと寄ってきた。 「カナエ……貴女、」 「話聞いてたとはいえ、改めて言われたら……な、」 「うん、ちょっぴりびっくりするわよね」 「ねぇ、カナエ。アンタはどうする……いや、どうしたいのよさ?」 「そりゃ、俺らとしては帰って欲しくないってのが本音だけどさ」 わかってる。 これは、私が決めなくちゃいけない問題。 「カナエ。僕らはカナエがどちらを選んでも、それについて口出ししない。でも、ひとつだけ」 蒼衣は一度そこで言葉を区切る。 「僕らは、どこにいても繋がっている」 蒼衣のその一言で、悩んでたすべてが吹き飛んだ気がしたんだ。 「ありがとう、みんな……!」 これは、私の出した答え。 この答えが正しいかなんて、わからない。 「お父さん、お母さん。私……ね、」 もう、決めたから。 ⇒「ここで生きるよ」 ⇒「やっぱり、元の世界に帰りたい」 |