5


「やっぱり……私、向こうの世界に……帰ろうと、思うんだ」

この世界が嫌いなわけじゃない。
ううん、むしろ大好きで、ずっとここに居たい。

……でも。

お母さんがいなくなって、伯父さんたちはどれだけ悲しい思いをしただろう?
私までいなくなれば、どれだけ悲しむだろう?

それに、向こうにも友達はいる。
今頃あの子たちは何をしてるだろう?

そういうことを考えたら、やっぱり戻らなくちゃいけないって……そういう気持ちに、なったんだ。

「そう……か。それがお前の出した答えならば、何も言うまい」

お父さんの声には少し落胆の色が混ざっていた……が、反対はされなかった。

別れるのは辛い。
だって、ずっと今まで一緒にいたんだもん。
でも、向こうの世界にいるみんなのことを私は……放っておくなんて、できないんだ。

「ごめん……みんな、本当にごめん、ね」

はらり、はらり。
これは私が決めたことだから、涙を流す資格はないのかもしれない。
それでも……みんなと別れたくない。
できることなら、こっちで育ちたかった。
それは私が言って、どうにかなるようなものではないけれど。

「カナエ……」

「カナエちゃん、」

伝わってくるのは戸惑い。
私はみんなの元へ行き、しっかりとそれぞれの顔を見る。

垂の唄、すごく耳に心地よくて、いつもいつまでも聴いていたかった。

炬には、私が悩んでるときにはいつも受け止めてもらったね。

なぎの優しい雰囲気にはいつも癒されて、すごく居心地がよかったんだよ。

風音にはみんなを引っ張ってもらって、すごく頼りにしていたんだよ。

翡翠は一番、最初と雰囲気が変わったね。いつの間にか、すごく頼もしくなった。

そして……そして、蒼衣。
最初から蒼衣は私の側にいて、いつも私を支えてくれた。
蒼衣がいなかったら、こうやってみんなに出会えてなかったかもしれない。


ありがとう。
ありがとう。
ありがとう。


みんなには、何度言っても足りないくらい感謝してるんだよ。

お父さんやお母さんに会えただけじゃない。
こんなにも素敵な仲間に出会えて、私は本当に幸せなんだよ。


「……カナエがそうしたいって心のどこかで思ってるのは、薄々気付いてた。カナエがそうしたいなら止めるべきじゃないっていう気持ちと、行って欲しくない思いが葛藤していた。でも、カナエがそう決めたのなら、僕らも決めた」

それは、口数の少ない蒼衣にしては珍しく長い言葉だった。

「僕らは、カナエに出会えてよかったと思ってる。今まで……ありがとう」

ありがとう……その言葉を聞いた途端、また新たに涙が溢れてきた。



出会いと別れは同一のものだというのを何かで見たような気がする。
あのときは詩的すぎて理解できなかったけど、今なら少し……わかる気がするんだ。



「じゃあ、そろそろ行くね」

どれくらい、そうしていただろう。
辺りはすっかり夕闇に包まれて、空には星が瞬きはじめていた。

「う……ん。カナエちゃん、元気でね」

「アタシたちのこと、忘れるんじゃないわよぅ」

「私たちも、カナエちゃんのこと……絶対に、忘れないわ」

最後にぎゅう、とみんなと抱き合って、私はお父さんの元へ近付いた。

「別れは、すんだのか?」

「うん……これ以上いたら、決意が鈍っちゃいそうだから」

だから、私はもう、行かなくちゃ。

「そうか……ならば、」

時宮(ときのみや)、と虚空に呼びかけるとそこに現れたのは、

「セレビィ……?」

「私の旧友であり、お前をここへ連れて来たのがこの時宮だ」

『ちゃんと会うのは初めまして、かな?姫君』

そう言うとセレビィ……時宮くんはくるりと回った。
そっか、あのとき私の手を引いていた小さな手は、この子のものだったんだ。

「じゃあ、ね。みんな」

うっかり言いそうになった、またね、という言葉を飲み込んで。

『ほらほら、早くしないと置いてくよ!』

どうやら、時宮はかなりせっかちらしい。
ぐいぐいと私の腕を引っ張り、いつの間にか開いていた空間へダイブする。

「え……あ、ちょ!み、みんな元気でね!」


そうして私は。
唖然とするみんなが見守る中、セレビィの時宮に引っ張られるままに、時の狭間へと飲み込まれたのだった。


さよなら、そしてありがとう。
大好きなジョウト地方!!



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ただいま、わたしのせかい!


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