夜空がきれいだったから
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「珍しいね、ジョーカーくんがお酒を飲もうというなんて!」

ウキウキと、クイーンがワインをテーブルに並べていく。
その姿は、パーティーの準備をしている子供のようだ。

「何だか息子を持った父の気分だね」
「……」

鼻歌まじりのクイーンと、ため息をつきそうなジョーカー。

夜のトルバドゥールのキャビンでは、飲み会が行われようとしていた。
なまえはすでに夢の中ーーというよりは、ジョーカーがなまえは抜きでお願いしますと言ったからだった。

「さて、ジョーカーくん。準備は整ったよ、始めよう!」
「……はあ」

何か違うと思うジョーカー。
彼は、ゆっくり話をするためにクイーンを誘ったつもりだった。
これではちゃんと話をするのら無理かもしれないと、半ば諦めながらもジョーカーはグラスを手に取った。

「乾杯!」


あまり酔わないように少しずつ飲むジョーカーと、ジョーカーの倍のスピードで飲んでいるのに全く酔わないクイーン。

「いやぁ、やっぱり二人で飲むお酒はうまいね!」
「よく酔いませんね……」
「ジョーカーくん、もっと飲んで飲んで!」


他愛ない話が一区切りついたところで、すごい勢いで飲んでいたクイーンはグラスを置いた。それに気付いたジョーカーは、不思議そうにクイーンに視線を向ける。

「……それで、何を聞きにきたのかな?」

少し驚いたようにジョーカーがクイーンを見つめる。
見透かしているような目。

ーーこの人には、敵わない。
ジョーカーもグラスを置く。

「……なまえのことなんですが、」
「うん」
「たまに、無理して笑ってるんじゃないかって思うときがあって……」
「どうしてだい?」
「……いえ、何となく」

言葉を濁すジョーカーに、それを見て微笑むクイーン。

「……基本的には、ちゃんと笑ってると思うんですけど……」
「……なまえちゃんは器用だからね、他人のことばかり考えちゃうんだ」
「え……?」

聞き返したジョーカーに向かって、クイーンは優しく問い掛けた。
親が子供に問題を出すときのように。

「どうしてなまえちゃんは笑っていると思う?」

沈黙。
ジョーカーは、少しうつむいてクイーンの言ったことを考えているようだった。問題を必死に解こうとする子供のように。

「…………分かりません」
「そうだね。きっとすぐに分かるよ」
「……」

またグラスを手に取るクイーンを、ジョーカーは見つめる。その目には、不満がありありと浮かんでいた。
けれど、クイーンに答える気が無いのが分かったのか、諦めたように口を開いた。

「…………。それなら、」
「うん?」
「人は笑うのに理由が要るんでしょうか?」

クイーンは苦笑すると、ワインの入ったグラスを回した。そして、ワインを一口飲んでから、答えた。

「……わたしは、要らないと思うよ。理由に縛られて笑うなんて、美しくない」
「……」
「笑いたいときに笑えば良い。……そうだね、あえて理由をつけるなら例えば、」

クイーンの指先が、流れるように上を指した。
その動きにつられてジョーカーが上を見上げる。天井にはめられた窓から見えたのは、雲一つ無い満天の星だった。
思わず見入るジョーカーを見て、クイーンは目を細めた。

「夜空が綺麗だった。そんな理由で良いんだよ」



夜空がきれいだったから。


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