「ジョーカー君、あのね」

いつも通りの昼下がり。
ジョーカーの前のソファーに、カップを片手に座ったなまえは、彼に向かって神妙な面持ちで口を開いた。
その重い口調に、思わずジョーカーは顔を上げる。そして、彼女の口元に注目。

「……このメガネなんだけど、」
「……はい」

おもむろに、自分の掛けている黒縁眼鏡に触れるなまえ。
彼女は、いつもメガネを掛けて過ごしている。それはなかなか似合っていて、外しているところは見たことが無いくらいだった。

いつになく真剣な雰囲気に、気圧されながらもジョーカーは返事を返す。

「……あのね……」
「なんですか……?」
「…………なんとこれ、伊達眼鏡なの!」

イタズラが成功した幼い子供のように、得意気に言うなまえ。
レンズ越しのキラキラした視線と、無感情な冷たい視線が交わる。もちろん、どちらがどちらなのかは誰でも分かるだろう。

「……」
「……」
「……それだけですか?」
「それだけです」

頷いた彼女に絶対零度の視線を向けるジョーカー。
そんな彼を見て、なまえは肩をすくめた。
そして、天井のスピーカーに向かって声を掛ける。

「RD、温度が下がったんじゃない?」
[その原因は貴女の前にいるジョーカーで、更にそうしている原因は貴女かと思われます]

RDの冷静な分析に、彼女はまた肩をすくめる。
そして、ミルク入りのコーヒーを一口飲んだ。ジョーカーは、一つため息をつく。

「……それで、どうして眼鏡を掛けているんですか?」
「私が眼鏡好きだからかな?」

彼女は眼鏡を外すと、

「つけてみる?」

と、ジョーカーに差し出す。
あっさりと、首を横に振って断るジョーカー。

「えー、つけてみようよ」
「いいです」
「残念……」

言葉通り、残念そうな表情で眼鏡を掛け直す。
やっぱり彼女によく似合っている、とそれを見てジョーカーは思う。

「あ、ジョーカー君ジョーカー君、」

笑顔のなまえは、彼に向かって手招きした。
困惑と疑いの視線を向けながらも、ジョーカーは軽くソファーから身を乗り出す。
それを見て満足気な表情をした彼女も、ソファーから身を乗り出して、彼に顔を近づける。

「っ、」

お互い、数センチという距離。
ジョーカーが思わず身を引こうとする前に、彼女は彼の頬に唇を落とす。
顔を赤くする彼を見て、なまえの唇が弧を描いた。

「あのねー、眼鏡してるとキスしにくいんだって」

悪戯っぽく笑って、そう言ったなまえ。
それを見て、ジョーカーは思わずため息をついた。



140913
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