「ジョーカー、今日は何の日か知ってますか!」
いきいきとした表情で、ジョーカーに問うなまえ。
突然の質問に面食らいながらも、ジョーカーは頭の中にカレンダーを浮かべた。
ーー何か行事はあっただろうか。
しかし、何も思い浮かばない。
「……分からないです」
「だよね、私も知らないの」
「…………は?」
「何か面白いことないかなって思ったんだけどー……」
紛らわしい言い方に、ジョーカーは頭を抱えた。
そんな彼に気付かずに、暇な彼女は面白いことはないかと頭を悩ませ始める。
「んー…………あ! ねぇ、ジョーカー!」
「なんですか……?」
何を思い付いたのか、なまえは顔を明るくした。
どうせロクなことではないだろうと、ジョーカーは考える。
「もう秋だね!」
「そうですね」
「では、秋といえば?」
嬉々とした表情で再び質問するなまえ。
何を考えているのかと、ジョーカーは警戒しながらも答えた。
「……読書とか芸術の秋、ですか?」
「うん、それもあるね! だけど、ジョーカーは普段から読書ばかりじゃない?」
「えぇ、まぁ……」
「なので、今日は食欲の秋ということで!」
さっきまでの嬉々とした表情が、さらに輝いている。
それと比例して、さらに警戒を強めるジョーカー。
そんな彼の様子は気にせずに、なまえは、胸の前で両拳を握って言った。
「焼き芋作ろう!」
「…………」
全く頭に無かった単語に、ジョーカーは脱力感を覚える。
「焼き芋……?」
「あれ、知らない? 日本では秋の恒例の行事なんだって、クイーンが言ってたよ」
「……」
クイーンの言うことは鵜呑みにするべきではないというのは分かっていたが、クイーンが二人よりも日本に詳しいのは確かだった。
そのため、ジョーカーは何も言わない。
なまえが続ける。
「えぇっとね、まず枯れ葉がいる!」
「枯れ葉ですか?」
焼き芋と枯れ葉が結び付かないジョーカー。
そんな彼に、なまえは得意気に説明を始める。
「うん。枯れ葉を山から拾ってきてね、それを燃やしてお芋を焼くんだよ。どこの家でも、秋になったら週に一度はするんだって」
「へぇ……」
「焦げたらおいしくないから、職人がいるらしいよ! 秋になったら飲食店に必ず売ってるとも言ってた。あ、あとさつま芋だけじゃなくて、ジャガイモとか里芋も焼くの」
「……東洋の神秘ですね」
その知識が間違っているとは知らずに、ジョーカーは日本の焼き芋文化に感心する。
「というわけで、枯れ葉ってないかな」
「無いと思いますけど」
飛行船に枯れ葉が置いてあるとは思えない。
ジョーカーの考えは、もっともだ。
しかし、なまえは諦めずにこの船を操縦する人工知能の名前を呼んだ。
「RDー!」
[なんですか?]
すぐに気付いたらしいRDに、彼女は期待しながら訊く。
「あっ、あのね、枯れ葉ってない?」
[枯れ葉……? ありませんが]
思った通りの答えとはいえ、彼女はガックリ肩を落とす。
不思議に思ったRDは、なまえに問い掛けた。
[どうして枯れ葉が必要なんですか?]
「焼き芋作ろうと思ったの!」
[……]
その言葉で、RDはことを理解する。
ーークイーンが、また妙な知識を吹き込んだんだろう。
呆れながらも、RDはなまえに言う。
[……あったとしても、トルバドゥールの中じゃ出来ませんよ]
「あ、そうか」
どうやら全く気付かなかったらしいなまえは、残念そうな顔をした。
そして、少し考えてからジョーカーに向き直る。
「今度公園かどっかで、焼き芋しよう! ね、ジョーカー!」
あまり乗り気ではない彼。しかし、どうせ連れて行かれるのは分かっているため、大人しく頷いた。
「よし、じゃあ図書室に行こう」
「図書室?」
「今日は読書の秋!」
ピッと人差し指をたてる。
そして楽しそうに笑ったなまえは、ジョーカーを連れて図書室へ向かった。
140907