ただいま、教授の洋館のソファーで読書中。

分厚い推理小説のページを捲りながら、隣の教授のほうをチラリと見る。
彼は、猫を膝に乗せたまま、私と同じように推理小説を読んでいる。ノミ取り、終わったのかな。猫ちゃん不満そうに見えるんだけど。
まぁいいか、と視線を本に落とす。
だけど、もう一度教授を見て口を開いてみた。

「教授、」
「うん?」
「……なんでもない」

そう言うと、教授は不思議そうな顔をした。そうして、長い指で本を捲る。
私も、次のページを開いた。

そういえば、いつから読んでるっけな。結構時間経ってる気がする。
本を支える私の指に視線を向ければ、人差し指にささくれを発見。やだな、これ剥くと痛いよね。

「…………」

ちょっと考える。
教授の家に爪切りなんてないよね。切っちゃいたいけど。あっても本に埋もれてるだろう。
家に帰ってからにするか。気にしないでおこう。

そう考えて、再び本の文字列を追った。
隣から本を捲る音がした。

「…………」

…………気になる。
こういうのって、気になってしまうのは私だけだろうか。うーん。
上手くいけば、痛くない。はず。取っちゃおうか。
いや、でも失敗したらヒリヒリ……ズキズキ……。

しばらく考え、私は結局取ってしまおうと決めた。
まぁ、結果としては間違いだった。

ピッと取ってしまえば、じわりと滲む血。
あぁぁ、やっちゃった、失敗。
やっぱり我慢するべきだった……。
ズキズキする人差し指の血を、自分で舐める。うぅ、しみる……。

「どうしたの、なまえちゃん?」
「っあ、ちょっと血が出ちゃって……」

痛みに顔をしかめる。
これ、お風呂でしみるだろうな。
私の指を見た教授は、自分が読んでいた本を閉じた。猫が教授の膝から、床に降りる。

私も膝の上の本を閉じようかと思ったら、教授が私の手をとる。
え。
どうやら教授の体温は私より低いらしく、ひやりとした。

「……教授?」

行動の意図が読めず、戸惑う。
教授の顔を覗きこもうとしたら、指に生暖かい感触がした。

「っ、ちょ、教授……っ!」

私の指を舐めた教授に、呆然としてから顔に熱が集まるのを感じた。
指がヒリヒリするけど、そんなことは今はどうでもいい。

「……っ、教授、!」

私を見た教授の目を見たら、何故だか背筋が粟立った。ぞくり、とする。熱くなった顔とは反対に。
思わず彼の肩を押す。
力が緩んだので、慌てて指を引っ込めた。
教授を見れば、彼は困ったように笑って、

「……ごめんね」

そう小さく呟いた。

「……」

だけど、何だか儚く見えて。
気付いたら、彼の手を握っていた。それに気付いた教授は、微笑んだ。
いつもの教授。



140906
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