「ジョーカー、見て見て!」

トルバドゥールのキャビンに、なまえの声が響きわたる。
名前を呼ばれたジョーカーは、さっきまで読んでいた本のページから顔を上げた。そして、彼女を見て唖然とした表情を見せる。

「……どうしたんです、それ?」

いつも、シャツやワンピースなど至って普通の格好をしていたなまえが着ていたのは、何故かチャイナ服だった。
いつも下ろしているストレートの髪も、上のほうで結っていた。
ふふん、と自慢気な表情を見せる彼女に、よく似合っている。東洋系の顔立ちで、華奢だからだろう。

「ふふ、なんとね……」
「……はあ」
「RDが作ってくれました!」
[このくらい、お手のものです]

嬉しそうに言ったなまえの後に続けて、RDの声が降ってくる。
RDに顔があったら、今はきっとドヤ顔だろうとジョーカーは思った。

「だって、クイーンもジョーカーも衣装が決まってるじゃない? だから、私もなんか欲しいなって思って!」

ーー別に衣装ってわけではない。クイーンがどうかは知らないが。
そんなことを考えたジョーカーだったが、笑顔の彼女に水を差すのはやめることにした。

「……それで、どうしてチャイナ服なんですか?」
「ジョーカーとお揃いなのも良いなぁって」

似合う?と服の裾をつまむなまえに頷いてみせれば、彼女は目を輝かせる。
微笑ましく思うジョーカー。
そこにRDのマニピュレーターが、遠慮がちに下りてきた。
それに握られているのは、フリルのついたワンピース。というか、ドレス。

[クイーンver.です]
「クイーンver.?」
「あっ、あのね、クイーンとお揃いの衣装も作ってもらったの!」

RDから服を受け取ったなまえは、自分の体にそれを当てがう。
確かに、クイーンのものと似ている。
それを見て、ジョーカーは少し眉根を寄せた。

面白くなさそうな彼の表情にいち早く気付いたRDは、退散したほうが良いかもしれないと考える。しかし世界一の人工知能には、ついていなくてもいい野次馬根性がついていた。
とりあえず、二人を見ながら黙るRD。

「着てみようかな。でも何かこれ、着るのに時間掛かりそう……」

独り言を呟きながら難しい表情をしていたなまえは、ジョーカーのほうに向き直る。

「ねぇねぇ、ジョーカーはどっちが良いと思う?」

そう問いかけられたジョーカーは、彼女に向かって手招きをする。
首をかしげながらも、近くに寄るなまえ。

「なに?」

ソファーに座ったままジョーカーは、彼女の腕を軽くひく。
驚いてバランスを崩したなまえの唇に、彼は自分の唇を合わせた。小さなリップ音。
目を見開いたなまえの手から、ドレスが床に落ちる。

「……っ、」

すぐに離された唇を手で押さえたなまえは、真っ赤な顔をしていた。
ジョーカーのほうも、少し顔を赤くして彼女から目を逸らす。そして、小さく呟いた。

「そっちのほうが、似合ってます」

キョトンとして、自分の着ている服を見たなまえ。
すぐに、赤い顔で嬉しそうに笑った。



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RDは一部始終を見ていましたとさ。
140903
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