「おじゃましまーす、教授ーみかんとお餅持ってきたよ!」

いつも教授がいる奥の部屋に向かって呼び掛ける。返事がないのはいつものことだから気にしない。
向かいにある私の家からは一分もかからずに来れるものの、冷たい風に晒されるとあっという間に冷えてしまう。はぁ、と息をつくと白くなってすぐに消えた。洋館寒い。

「あれ、なまえちゃんいらっしゃい」
「あとで亜衣ちゃん達も来るってー……うわ、教授そんなにストーブに近付いてたら髪燃えるよ」

ストーブにギリギリまで近付いて読書をしている教授。相変わらず本は散らかったままだ。年末といっても彼にとっては全く関係ないらしい。
教授の側に寄って私もストーブの前に座ると、持参した毛布を頭から被った。

「いいなー……」
「ハイハイ、教授用ね」
「!」

教授用の毛布を渡すと途端に目を輝かせる。よし、これでお年玉をねだられることはないだろう。
さらにみかんの入ったカゴをテーブルに置くと、この間おじいちゃん家でついてきたお餅を取り出した。再び目を輝かせて光速なみの速さで手を出す教授から、サッとみかんとお餅を隠す。教授の行動は予測済みだ。

「お餅は一個、よく噛んでゆっくり食べてよ」

ガクガク頷く彼にお餅を渡すと、あっという間に消え去った。……教授のゆっくりってなんなんだろう。
座っているのが辛くなってきたので、教授と同じように床にうつぶせる。

「それにしても、ずっと動いてないんじゃないの?」
「そんなことはないよ!」
「当ててあげる。最後に動いたの、ストーブの灯油が切れたときでしょ」
「…………」
「本はそこらじゅうにあるから、動かないで取れるしね。それで、もう一週間くらいたってるんじゃない? もうすぐ切れるよ」

そう言った瞬間、電子音が響き渡った。言わずもがな、灯油が無くなったのだ。
静かになった部屋に教授の拍手がパラパラと響く。

「すごいね、なまえちゃんそろそろ助手を卒業できるんじゃないかい?」
「それは嬉しいんだけど、このくらいは誰でも分かるんだよね」

唯一の暖房器具が存在しなくなったが為に、冷気が襲ってきた。寒い。

「教授灯油買ってきたら?」
「なまえちゃん、行ってくれないの?」
「やだよ。私は部屋に戻ればエアコンあるし」
「これだから最近の若者は……」
「いつもダラダラしてる教授に言われても」

ダメだ、これは買いに行く気ないな。というかそもそもお金あるのか。まずい、やっぱりお年玉とられるかもしれない。

「あああああ、寒い……っ!」

とりあえず教授にくっついとこう。毛布にくるまったまま、横に転がって教授へ衝突すると呻き声が頭上で聞こえた。思わず笑って頭を教授の腕に押し付けてると、ぽんぽんと頭に手が置かれる。
もうすぐ亜衣ちゃん達が来るから、おしくらまんじゅうが出来るよ。




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