10月31日、ハロウィンの日。
探偵卿の集まるICPOでも、今日はにぎやかだった。

「ヴォルフ、トリックオアトリート!」
「…………」
「トリックオアトリート!」

(いつも通り)不機嫌そうなヴォルフと、瞳を輝かせているなまえ。ヴォルフは、トリックオアトリートとは何が何でも言いたくないらしく(ルイーゼ談)、なまえは何が何でも言わせたいらしい。
何度かハロウィンの歌い文句を唱えたあと、なまえは諦めたのかため息をついて、ヴォルフに向かって手を差し出した。ポケットからキャンディーを出して手に乗せるヴォルフ。

「ちゃんと持ってきてるじゃない」
「お前が先週から毎日ハロウィンまでのカウントダウンをしてたからな」
「感謝してね」

キャンディーを仕舞ってから、彼女は白い小さな箱を取り出した。それをヴォルフに差し出す。

「……なんだ、これ」
「シュークリーム」
「…………遠慮しておく」
「なんでよー!」

なんとなく嫌な予感がしたヴォルフは、箱をなまえに突き返す。唇を尖らせた彼女の背後で、扉が開いた。
入ってきたのは、同じく探偵卿の仙太郎。それを見たなまえは、途端に表情を明るくさせる。

「良いところに来た、仙太郎!」
「へ?」
「…………」

日本で言うなら、ご愁傷さまとでも言うような目で仙太郎を見つめるヴォルフ。状況を理解していない仙太郎は、首を傾けた。

「はい、それじゃあ、ここにシュークリームが二つあります」

箱を開けると、確かにシュークリームが二つ。見た感じでは、いたって普通だ。それでもやはり警戒は解かないヴォルフ。能天気な仙太郎は、うまそーと呟いた。

「どちらも私の手作りです」
「「えっ」」
「なにか文句でも?」

ヴォルフは視線を逸らし、仙太郎はフルフルと首を横に振る。それを見たなまえは満足気に頷いた。

「どちらかは、タバスコ入り。どちらかは、普通に美味しいシュークリームです」
「…………」
「…………」
「さて、運試し行ってみよう!」

一個ずつ取ってね、と箱を二人に差し出す。二人は顔を見合わせると、諦めがついたらしくため息混じりに一つずつ手に取る。

「どうぞ」
「「……いただきます」」

息を吸い込んだ二人は、心を決めたのか潔く大きくシュークリームにかぶりついた。

「…………」
「…………」
「…………」
「……俺の、普通だけど旦那は?」
「……普通だ」

覚悟していた辛さが襲ってこないことに、違和感を覚えた二人はシュークリームを作った主を見つめる。彼女はにこっと微笑んだ。

「イタズラ成功!」
「えっ」
「……はぁ」
「まさか、私がそんな非情なことするわけないじゃない」

チッチッチッと指を一本立てて、顔の横で振る。呆れたようにため息をついたヴォルフは、安心してシュークリームを更に頬張っている仙太郎を見て、またため息をついた。

「ほらほら、遠慮しなくて良いのよ」

ヴォルフの片手に残っているシュークリームを、食べるように促すなまえ。

「食べないなら、私が無理矢理突っ込んでも良いけど……」
「やめろ」

握りこぶしを作った彼女を見て、彼は再びシュークリームをかじった。なんだかんだで食べ続けるヴォルフと仙太郎。

「来年はなにが良いかなー」
「なにもしなくて良い」
「俺、ケーキが良いな」
「顔面にケーキまるごとぶつけるとか?」

さっと顔を青くしたヴォルフを見て、なまえはまた笑う。そして、もう一度私がそんな非情なことするわけないじゃないと楽しそうに言葉をこぼした。



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