今日も空を浮遊する巨大な飛行船、トルバドゥールの中に小さな足音が響く。
その足音の主は、鈴のような声で彼の名前を呼んだ。

「ジョーカー、」

キャビンのドアの隙間から、なまえがひょこ、と顔を覗かせる。
その声に、ジョーカーは彼女に視線を向けた。

「なんですか?」

彼の言葉を聞いて、部屋の中に入ってきたなまえ。
その手には二つの髪飾りと、くしが握られていた。そして、手首には簡素な茶色いゴム。
髪を結ぶための道具が一式揃っていることに気づいたジョーカーは、不思議そうに首を傾けた。
なまえも真似るように、首を傾ける。彼女の長い髪が、肩を滑り流れた。

「これ、どっちが良いかな……!」

二つの髪飾りを、ジョーカーの目の前にずいっと近付けるなまえ。
思わず体を引いたジョーカーは、とりあえずそれを手に取った。
そして、その髪飾りたちを眺める。
一つは、ピンク色の生地にレースがついたもの。もう一つは、薄いグリーンの生地に小さなリボン。

「……どうしたんですか?」
「ジョーカーは、どっちが良いと思う?」

なまえはどっちを付けようか迷っているのだろう。
どちらが彼女に似合うだろうと、ジョーカーは考え込む。

「……どっちでも良いと思います」

どちらも彼女には似合うという結論を出したジョーカー。
それに対して、なまえは不満そうに眉を寄せた。頬も膨らんでいる。

「ジョーカーってば、分かってない!」
「え」
「もうちょっと考えてよー!」

不満そうな表情は崩さずに、なまえは床に座り込み、くしを使って髪をまとめ始めた。
そんな彼女を見て、ジョーカーはもう一度髪飾りを眺め、そして、眉を寄せて顎に手をあてる。
やっぱりどちらも似合うという結論は変わらないが、一つ選ばないと彼女の機嫌をまた損ねることになる。
悶々と考える彼の横で、髪を結び終わったなまえ。

「ジョーカー、」
「はい?」
「むすんで?」

ジョーカーの持っている髪飾りを指差し、それから今度は自分の髪を指差す。

「え、いや、結んだことないんですが……」

当然のことながら、髪を結んだ経験などない。
首を振るジョーカーに、なまえは背中と後ろで結っている髪を向けた。

「ゴムの上から付けるだけだよー」
「…………」

こうなると、ジョーカーがするまで粘り続けるだろう。
それが分かっている彼は、もう一度二つの髪飾りを交互に見つめる。そして、迷った末にグリーンの髪飾りを手に取った。

そっと彼女の髪に触れる。さらさらした感触に少しどきりとするのを感じた。
ゴムの上にそれを付ける。

「付けた?」
「はい」
「どっちにしたのー?」
「……グリーンの方です」

こっちで良かったのだろうかと、ジョーカーは若干不安にかられるが、なまえはそれを聞いて満足げに笑った。
そして、確かめるように髪飾りに触れる。

「ありがとうね、ジョーカー」
「はい」

嬉しそうに笑う彼女に、やっぱりそれは良く似合っていた。



140921
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