「御幸って、何ていうかあれだよね、」
私は椅子の向きを変えて、いつも通りに一人で寂しくスコアブックを読んでいる、後ろの席の住人に話し掛ける。
御幸は、私の言葉に顔をあげた。整った形の良い眉をひそめている。
「あれってなに?」
「何ていうか……」
えーっと、何ていうの?
こう……。
「…………老けてる?」
あ、しまった言葉間違えた。
訂正する前に、御幸のチョップが私の脳天に降り下ろされた。
ビシッと綺麗にきまったチョップは、そりゃあもう痛かった。本当に。
「……っ痛い……!!」
「そっちが失礼すぎるんだろ」
頭を押さえて悶えていると、御幸はふふん、と笑った。
内心むかついたが、悪いのは私なので素直に謝っておくことにする。
「……ごめんなさい、言葉を間違えました」
「ふーん? じゃあ訂正した文をどうぞ」
いつの間にかスコアブックは閉じられ、御幸は頬杖をついていた。
やっぱり顔が整ってると何でも絵になるなぁ、なんて思いつつ慎重に言葉を選ぶ。
「えっと……何か高校生って感じじゃない」
首をかしげる御幸。
あぁ、もう言葉って難しい。
「ほら、高校生なんだからもっと弾けて良いんじゃないの、沢村みたいに」
「落ち着きすぎ、みたいな? 沢村はバカなだけだろ」
「あ、そうそう。そんな感じ」
的確な言葉に、首を縦に振る。ところで沢村に失礼だよ。
御幸って容姿が整ってるうえに、それなりに勉強も出来るから何か腹立つ。テストの結果が返ってくるときなんかは特に。
おっと話が逸れた。
「ま、そう言われてもなぁ」
「イメチェンしてみれば?」
「どうやって」
「眼鏡外してみるとか!」
御幸の眼鏡に手を伸ばせば、手首を掴まれたため失敗。
御幸の素顔って、あれだ。青道野球部の七不思議に入るんじゃないかな。ちなみに他は…………監督の素顔とか。
「またアホなこと考えてんだろ」
「失礼な。っていうか、またってなに」
「いつものことじゃん」
言い返そうと思ったけれど、御幸に口で勝ったことはないので引き下がる。
「でも、俺が沢村みたいになんのは想像できねぇだろ」
「御幸が沢村……」
無理やり想像してみたけど、すぐに消した。っていうか消えた。
「……ないね」
「なまえの頭が良くなるくらい、ありえねぇな」
「…………倉持がたれ目になるくらいありえないね」
何となく出てきた倉持で言い返してみると、思いの外ウケたらしい御幸は、口を押さえて笑っていた。
ごめん倉持。
笑いがおさまったのか、御幸が手を離す。
「まぁ、あれだろ。個性ってことで良いんじゃねぇの」
「……おぉ、何か主将っぽくまとめた」
主将といえば。
「でもさ、哲さんも落ち着いた人だから、意外と御幸向いてるかもね、主将」
「……そりゃどーも」
御幸は少し面食らった顔をしてから、ふっと笑った。
「……何か意外とまとまったね」
「……おぉ」
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