ただいま、休み時間。
そして、かなりショッキングな出来事が先程あった。
なんと、教室のエアコンが壊れたらしい。

その事実を聞かされた私は、しばし呆然とし、それからクラスメートのブーイングで我に返った。
まぁ、幸いなことに明日は休みなので、来週には直るという。
そう、今日一日だけの我慢だ。

……でも、暑いものは暑い。

隣の席の住人の降谷君を見ると、彼も相当なダメージをくらっているようだった。
動きたくないけど暇な私は、隣の席というのに、ほとんど喋ったことがない彼に話し掛けてみることにした。

「降谷君、動物好きなの?」

そう話し掛ければ、きょとんとこちらを向く降谷君。
唐突過ぎたかな。まぁいいや。

「いっつも動物図鑑持ってるけど」

すると、降谷君は頷いた。
これは、動物が好きって意味だろうか?
考えあぐねていると、彼が口を開いてくれた。

「……見る?」
「え?」

降谷くんが取り出したのは、あの動物図鑑。
わ、二冊もある。重そう。
そしてそのキラキラした視線は、図鑑を見ろっていうことなのだろうか。え、これありがたく見させて貰えば良いの?

「……じゃあ、見せてもらおっかな」

降谷君は二冊とも差し出してきたが、それはお断りし、一冊だけ図鑑を受け取って、パラパラ捲ってみる。

目に入ってきたのは、一面の雪と氷。
ペンギン、アザラシ、シロクマ……。
どうやら、寒いところにいる動物たちらしい。
そこは考えられない位寒いんだろうけど、今暑くてしょうがない私から見れば涼しそうに見える。人間って不思議。
あぁ、うらやましい。

ページを捲りながら、降谷君に話し掛ける。

「降谷君は、好きな動物とかいるの?」
「白クマ」

すぐに返ってきた答え。
へぇ、白クマ……。
白クマを探してみると、案外すぐに見つかった。おぉ、迫力ある。

「どこが好きなの?」
「…白クマは、こんなに寒いところでも、自分の力で生きててすごい」
「あぁ、強いからね」
「…北海道も寒いけど、」

そういえば、降谷君北海道から来たんだっけ。

「白クマがいる所の方が寒い」
「そっかー、まぁ北極だしねぇ」
「あと、かっこいい」
「それ大切だね」
「僕も、これくらい強くならないと」

何となく、図鑑を捲る手を休めて、降谷君を見る。
あれ、こんなに喋るタイプだったかな、彼。

彼のお話は終わったらしいので、私から話を振ってみる。

「でも、白クマがこっちに来たら、暑くて倒れちゃうね」
「毛皮、着てるから……」
「そうそう。すぐさま病院送りだよ」
「病院……この間行った」
「え、何で」

どうやら、野球で怪我したらしい。
降谷くんは、ピッチャーだったっけな。
……私はピッチャーとキャッチャーくらいしか、分からないけど。
えっと、9人でやるんだから、あと7人居るのか。

野球のグラウンドを頭に浮かべていると、再び降谷君が喋りだした。

「白クマみたいに、大きくなって…」
「うん」
「強くなって、」
「うん」
「もう、怪我しないようにしないと、いけない」

……降谷君って、全然喋らないイメージだったけど、好きなことになればこんなに喋るんだ。
分かりにくいようで分かりやすいんだな、って思ったらちょっと笑えた。

にしても、動物好きとは意外だった。
図鑑に目を落とすと、白銀の世界。
……涼しそう。
暑さが蒸しかえってきた。アイスか何か食べたい……アイス……白クマ……。

「……降谷君、白クマアイス好きだったりする?」

ふと思って訊いてみると、分かりやすく表情を明るくする降谷君。
そして、こくりと頷いた。

「へぇ……」

キラキラした瞳で、こっちを見てくる彼。
何だ、おごれってか。
キラキラ目線に負けた私(二回目)。

「……今度、おごったげる」

パアァという効果音が確かに聞こえた。
そのくらい輝いてましたよ彼は。えぇ。

「……代わりに、野球のこと教えてよ」

そう言ってみると、降谷君は少し考える素振りを見せてから頷いた。

「みょうじさん」
「うん?」
「野球、教えるから試合観にきて」
「……良いよ」

教室の中でも暑くて仕方無いのに、この炎天下の中試合観戦なんて、自分でもどうかと思う。

「ありがとう」

降谷君が笑った。
どきっとするなんて、本当どうかしてる。



140827

prev | next
back

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -