暑い。目の前にある背番号を見つめながら、それを追いかけて歩く。彼が背負っていると、なんだか2という数字は特別に見えた。
暑い。ため息をついて、ぱたぱたと顔を片手で扇ぐが大して効果はない。すると、さっきから私の前を歩いていた枡が立ち止まった。必然的に私も足を止めると、彼は自動販売機に小銭を入れた。

「なにが良い」
「え、奢ってくれるの?」

意外な言葉にきょとんとしつつ、なんでも良いよと返せばめんどくせぇ、と呟かれた。それからガコンと音がして、手のひらサイズのものが投げられてくる。

「ありがと」
「ん、」

キャップを回すと、炭酸が抜ける音がした。中の液体を喉に通すと、ぴりぴりして甘い味がした。

「生き返るー」
「お前、試合観に来るなら帽子被ってこいよ」
「んー、バッグに入れたつもりだったんだけどねぇ」

髪の毛に触れる。恐ろしく熱い。
次の試合までまだ時間あるし、一回帰って取ってこようか。さっき一試合目は観たのだけど、帰ってもすることがないし私はまだここに居座るつもりでいた。
直射日光にいい加減耐えきれなくなって、どちらが言うこともなく二人で木陰へ移動する。大分涼しい。

「日焼け止め塗ったのか?」
「そりゃ塗ったよ。焼けたかな」

たっぷり塗ったけど、野球観戦っていうのは思った以上に焼けるものだ。今日みたいな練習試合は屋根もないし。

「塗り直しとけよ」
「……なんか、枡さぁ」
「あ?」
「お母さんみたい」
「……」

思わずそうこぼすと、軽く睨まれた。私が帽子忘れたからだって言うんでしょ。嫌味を言ってくるかと思ったけど、枡はそのまま自分のペットボトルの中身を飲んだ。

「枡のやつ、なに?」
「炭酸水」
「えー、美味しいのそれ」

味ないだろうに。すると、また運動するんだからコーラなんか飲めねぇ、だそうだ。それもそうか。

「みょうじ、」
「ん?」

顔を向けると、枡は私に向かって手招きした。首をかしげつつ、近くに寄る。

「っ、わ」

枡が自分の帽子を頭から取ったかと思えば、ぐいっと私の頭に被せた。何度か押さえられて帽子を深く被るはめになったため、視野が一気に狭くなる。

「それ被っとけ」
「……サイズ大きい」
「別に良いだろ」

最後にもう一度帽子を押さえつけると、彼は手を離した。つばのせいで、枡の顔がよく見えない。

「良いの、これ」
「俺は試合では使わねぇし、いざとなったら誰かに借りる」
「……ん、ありがと」

目深に被り過ぎた帽子を今度は自分の指で押さえると、土と汗の匂いがした。あと、枡の匂い。

「さっきと同じとこで観てる」
「あぁ」

少しだけ、帽子を上に上げると太陽の光が眩しい。それが、枡と炭酸水のペットボトルに反射して、思わず目を細めた。まだまだ暑いなぁ。



141103
とても季節はずれ。(お題:瑠璃様)

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