レジのお姉さんの感謝の言葉を背中に受けて、コンビニを出る。
小さく息を吐くと、それは白く空気に溶けた。

「さむ……」

毎年のことながら、日本という島国の北の端っこである北海道の寒さは厳しい。
手袋をしていてもかじかむ手を擦り合わせながら、私はもう一度白い息を吐いた。
あぁ、寒い。

東京の冬は、こっちよりはまだ暖かいんだろう、と背の高い彼を思い出す。

人と接するのが苦手な暁が、一人で東京なんて不安だったけど。あ、でもじいちゃん居たっけ、向こうに。
たまーに送られてくるメールを見る限り、大丈夫そうだ。
ちなみに、メールの回数の分電話もしている。何でかっていうと、暁のメールは電話したいっていう合図でもあるからだ。
不器用な彼らしい。

そんな回想に浸っていれば、ケータイが震えてメールを告げた。
送り主の名前を見て、思わず頬が緩む。私はすぐに、彼に電話をかけた。

「もしもしー、暁?」
『うん』
「久しぶりだね」
『久しぶり』

変わっていない。
声も、言葉数が少ないところも。少し笑うと、暁は不思議そうな声を出した。

『……なまえ?』
「あ、ごめんごめん。上手くやれてる?」
『うん』

迷いなく答えをくれるのは、嘘がない証拠だ。
エース争いをしていて、暁に絡んでくるという投手の子とも仲良く出来てるのかな。ぜひ私も会ってみたいけれど。
あとは、雑誌に載っていたキャッチャーの先輩か。暁が言うには、腹黒いらしい。
……まぁ、キャッチャーはちょっと性格悪いほうが向いてるっていうしね。

「こっちはいつも通り寒いよ。東京、ちょっとはあったかい?」
『うん、そっちに比べたら』
「そっかー、代わりに夏は暑いんだろうね」
『うん……』

甲子園は夏だもんね。暁にとっては、結構キツいかもとは思っていた。
課題はスタミナロールだそうだ。最初は何のことだと頭を捻ったけど、どうやらスタミナとコントロールのことらしい。
ロールケーキの一種かと思った。どうして混ざってしまったのかは不明だ。

「もっと頑張んないとね」
『……頑張る』

しっかりした声が聞こえてきて、嬉しく思う。
あっという間に一年過ぎようとしているもんなぁ。久しぶりに、暁が投げているところが見たい。
きっと、前よりもっともっと良い投手になっているだろう。

「甲子園行ったら観に行くから、成長したとこ見せてね」
『うん。……なまえ、』
「なにー?」

電話だと分かっていながらも、首を傾ける。

『……一人だから、風邪ひかないようにね』

その言葉に、思わず声をたてて笑ってしまう。
私を一人で、寒い寒い北海道に置いてきたのを申し訳なく思っているんだろう。
この幼馴染みの言葉を翻訳するのは、慣れないと難しい。私は慣れたけど。
そっちに優秀な翻訳者は居るんだろうか。

「ありがとね」

見えないだろうけど笑顔でそう言う。
本当に、暁は不器用で優しい幼馴染みだ。



140921

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