※出てるコミック全部読了してれば、ネタばれにはならないですが、一応ワンクッション。
42巻からきてるお話です。











御幸君が、怪我をした。

昔から人のクセなんかを見つけるのが得意だった私は、それが分かってしまった。
逆に自分の感情なんかを隠すのが得意な御幸君は、ほとんどの部員からは気付かれることなく過ごしている。

気付いてしまった私は、どうすれば良いのか考えた。
彼が自分から言うとは思えない。だけど、言わないってことは、普通にプレーできるってことなのかもしれない。
私は、何もしなかった。気付かないふりをした。

期待だ。

もしかしたら、大した怪我じゃないのかもしれない。そんな期待で、私は何もしなかった。
彼は、チームに必要な存在だから。大きすぎる存在だから。

「……」

試合前ノックが終わり、選手達がベンチに入ってきたときを思い出す。
ノックの御幸君の動きは、いつもと変わらなかった。だけど近くで見れば、どう見てもいつもより汗が多いのが分かった。

御幸君には、大きな負担を掛けている。
主将で、さらに投手陣をまとめる正捕手。打線でも四番を打つ、居なくてはならない存在。
前よりも大きく見える背中に、選手も私達も、多分監督も思っているより頼っているのだ。

彼は強い。強いから、人に頼ろうとしない。弱いところを見せようとしない。
だけど、それはマネージャーの私からしたら、むず痒く見えた。

もっと頼っていいのに。
そう言いたいけど、一緒にプレーしていないのに、そんなことを言うのは何だか違う気がした。

『勝ってから倒れろ!!』

数分前、姿の見えない御幸君と倉持君を呼びに行こうとして、耳に入ってきた言葉が頭で響く。

一緒に闘ってきた倉持君だから、言えたこと。
そして、自分たちの力を信じているから言えたこと。


「……うん」

頬を軽く叩く。
私の目の前にあるスコアブック。鉛筆を握る。

私は、直接力になれないから、ベンチから声援を送ることしか出来ない。
だから頑張っている選手たちを、一瞬でも見逃さない。力を信じて応援する。
でもそれは、選手じゃない私だから出来ることでもある。

息を吸い込む。

「整列!」

試合開始の合図が響いた。



140904

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