自分で言うのもなんだけど、私は頭が良いほうだ。
いや、自慢しているわけではなくて。

テストの点も良いし、先生からも信用されている、と思う。
勉強自体はあまり好きではないのだけれど、何ていうか私は特に打ち込めるような趣味とかそういうものが無かったから、勉強を頑張るしか無かった。つまらない人間だなぁ、とたまに思う。

嫌味言われることもあるし、取っ付きにくいと思われたりするし。
プリントの裏に、シャーペンでぐるぐると丸を描く。特に意味はない。

「……」

ちなみに、今は自習の時間である。
先生が出したプリントを早々に終わらせた私は、特にすることもなくボーッとしたり落書きしたりしていた。
暇だし、さっきの考え事に戻ろうか。

頭が良くて羨ましい、とたまに言われるのだけど、私としては運動が出来るほうが羨ましい。
何かこう、かっこいいし爽やかな感じ。
うちの学校は野球部が有名だけど、やっぱり彼らはかっこいいと思う。イケメンとかそういう意味じゃなくて。

野球部といえば、隣の席の倉持君も野球部だ。
さっき描いた丸を、野球ボールにしてみる。こんなんだったよね、確か。
赤ペンで縫い目を入れたら、案外それっぽく見えた。

隣でプリントに頭を悩ませている彼を見てみる。
最初はヤンキーだと思ったんだけど。だって見た目からして怖いし、一匹狼みたいな人なのかなと。あ、でも実際御幸君といるとこしか教室では見たことないや。
まぁとにかく、意外と彼は真面目君だった。今だって、ちゃんとプリントやってるし。

「……」

そんなことを思いながら倉持君を見つめていたら、バッチリ目が合ってしまった。
反射的に目を逸らす。
あ、嫌な感じって思われたかもしれない。しまった。何やってるんだ。
どうしようと考えるけど、一応優秀であるはずの脳ミソは役に立たない。なぜ肝心な時に……。

「……みょうじ、」
「……」

そう呼んだのは、確かに倉持君だった。
驚いて彼のほうを見れば、困ったような顔をして自分のプリントを指差した。
意図が分からずに首をかしげると、倉持君は決まりが悪そうに頭をかく。

「わり、教えてくんね?」
「…………」
「頭良かったよな?」

え。
私?と自分の顔を指差せば、倉持君は一瞬キョトンとしてから、あの特徴的な笑い声をたてた。

「みょうじ以外に誰がいんだよ。ちゃんと名前呼んだし!」
「え、だってあんまり話したことないし、」
「ヒャハ、隣の席の奴に話し掛けんのにそんな大層な理由がいんの?」
「……」

少し考えて首を横に振る。よく分からないけど、何処かツボに入ったのか彼はまた笑った。

「あー……、みょうじおもしれーわ」
「え」

真面目だねーなんてことしか言われたことのない私。面白い……のか?
ところで彼は結局何処がツボだったのだろう。気になる。
悶々と考えていると、倉持君が再び私に声を掛けた。

「ま、とりあえず教えてくれるとありがてぇんだけど」
「あっ、うん」

椅子を近付けると、またわりぃなと言った倉持君に首を振る。
彼の大きな手は、一つの数式を指差していた。自分のプリントを見て確認しながら、出来る限り分かりやすく教えた(つもり)。
すると、倉持君が私のプリントを指差す。

「それ、ボール?」
「……あ、」
「意外と上手いじゃん、イビツだけど」

楽しそうにそう言った倉持君。
最初の意外と、が気になるけど。まぁ、野球部に誉められたんならちゃんと描けてるんだろう。
倉持君は、再び数式と睨み合う。

難しい顔をして解いていく、倉持君の横顔を盗み見る。
日に焼けてるなぁ。首のとこアンダーの跡かな、あれ。腕も筋肉あるの分かる。
やっぱり運動してる人はかっこいいよね。
そんな変態染みたことを考えていたら、どうやら解けたらしい倉持君と目が合う。

「あ、解けた?」
「おぅ、サンキューな」

そう言って、彼は思っていたよりも人懐っこい笑顔を見せた。ちょっとどきりとしたのは、何でだろう。
それは、私じゃ分からない難解な問題だった。あぁ、流行好きのあの友人達なら分かるだろうか。
何となくプリントにハートを描きたくなったのは、大したことではないだろう。多分。



140903

prev | next
back

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -