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マナは生きているだろうか。神威ならば、生かしそうな気もするし、殺しそうな気もした。
今は考えても仕方のないことだと頭を振った名前は来島と共にターミナル内にいた。伊藤と連絡を取り、来島と名乗った女が確かに彼の遣わせた人間だということは確認してある。
彼女の案内のもと、VIPとして小型飛行機をチャーターしたという伊藤のもとに向かうのだ。時間は一八時ぎりぎりだった。神経質な彼が怒っていないこと願いながら身体検査もなしに特別飛行場への通路を渡った。誰にも呼び止められないばかりか、すべての検査をパスする様子に首を傾げた。

「ねえ、あなたどういった人なの?」
「…秘匿義務があるので答えられないっス」
「伊藤との関係も答えられない?」
「ええ」

体育会のような答え方をする来島に名前は再び首を傾げた。彼女はどうやら個性的らしい。しかし、非公式のチャーターだというのにここまで緩くて大丈夫なのだろうか。空港のセキュリティを心配した。階段を下り、飛行場の地面でヒールを鳴らした名前と来島の前に警備員姿の男が現れた。

「名字名前っス」
「パスポートを拝見させていただこう。また子、連絡を頼むでござる」

警備員らしき服装をしているのにも関わらずサングラスをかけているその男にパスポートを見せた。偽造ではない。正真正銘、名字名前のパスポートだ。それを何かの機械に読み取らせた男はうなずき、少し離れた場所で連絡を取る来島に視線を投げた。すると彼女は手を挙げ、電話を切って名前のもとに帰ってくる。

「確認はとれたでござるか」
「はい。先輩はすぐに戻るようにと」
「了解でござる。では、拙者はこれで…」

そういって男は歩いていった。名前の脳裏で男の声に聞き覚えがあるような感覚がうごめいたが、その背中を見送ることなく飛行機へ乗るための階段を上る。後ろから来島もついてくる気配がした。護衛なのだろうか。扉が付いているのは機体の後方。入って右側に向かい合うような形で四人がけのソファーが二つおいてあるはず。わずか八段の階段を上り、入り口の扉に手をかけた時、どこか生臭いにおいが名前の鼻孔をくすぐった。だが、彼女はそれを疲労からくる幻覚とでもいうように頭をふって掻き消す。今更、だ。木製の洒落た引き戸に手をかけ、あけた瞬間、自分の嗅覚が正しかったことと、自分が確かに疲れていたことを実感することになった。

「あんたに用はもうないっス」

来島に背中を蹴り飛ばされ、狭い機内で受け身もとれずに転がった名前の視界には四人の死体が移った。自分の足下には制服を剥ぎ取られたスチュワーデスの死体。自分の右手が触れているのは、伊藤の死体。名前が彼の名前を口にする前に、来島の2丁拳銃が火を噴き、彼女の左胸と腹を撃ち抜いた。沈黙する機内。来島は生存者がいないことを今一度確認したのち、スマートフォンを取り出した。

「また子っス。無事始末しました」
「あぁ…機体ごと死体は始末する。武市が来るまで待機しとけ」
「了解っス…あの、晋助様っ」

来島の呼びかけに答えることなく高杉は電話を切った。数分後、来島のもとに武市が整備員たちをつれてやってきた。パイロットに何か指示したあと、また子にここから離れるように言う。素直に従ったまた子は飛び立つ準備を始めた機体を仰ぎ、大きく舌打ちをした。


■ ■ ■


近藤は一方的にまくしたてられる電話にうんざりしたような顔を隠そうともせずに人の良さそうな顔を歪ませた。しつこい。その感情をいつも志村妙に抱かれているとも知らずに近藤は銀時に繰り返していた。

「あのね、うちに盗聴器なんてあるわけないでしょ!今忙しいの。ったく伊藤先生も戻らないし……」

捜査に向かったはずの伊藤が戻らないため、伊藤のグループが担当していた事件も一時的に近藤の指揮の下に入ったのだ。お陰で目も回るような忙しさ。そんななか確たる証拠も提供できない情報に踊らされるわけにはいかない。勢い良く電話を切るも、再びベルは鳴りだした。

「ちょ、もうトシー!」
「んだよ近藤さん……」
「もう俺ヤだ!代わって!」

分けもわからない土方に受話器を押し付けた近藤は逃げるように会議室に入ってしまった。仕方なく土方は応対を始める。

「おい!ゴリラ聞いてんのか!!」
「うっせーぞ万事屋。てめーの私用につきあってる暇はねーんだが、丁度いいからあの女、署までつれてこい。さっきの事情聴取してやる」
「マナがいなくなったんだよ!!」
「……は?」
「俺が戻ったら事務所はもぬけの殻だし、おいマヨラー!お前んとこに盗聴器あるはずだ。合計二十個。探せ」

いつもはひょうひょうとしている銀時の取り乱す様子に土方は仕方なく山崎を手招いた。書類にボールペンを走らせていた山崎は土方を見ると嫌そうに、それでも仕方なく腰をあげた。そんな部下に殺意を覚えつつ受話器を渡す。

「もしもし?」
「んだよジミーかよ。まあいいんだけどさ……」

土方にも探すように言われて山崎は仕方なくうなずいたが、この広い建物内でどうやって見つけろというのか。理不尽な上司に怒りを覚えつつ、銀時の声に耳を貸した。

「持ち込んだのは昨日今日のはずだ。なんかわかったら教えてくれ。二十個な。取調室も手洗い場もしっかり調べろよ」

そして電話は切れる。昨日今日。山崎の脳裏に昨日、自分が取り締まった男の事が浮かび上がってきた。沖田が逮捕し、山崎が取り調べを行った男。銀時に言われた取調室を片手に受信装置を持ち、ぐるりと見て廻ったが反応しない。次に手洗い所に向かった。こんな場所に盗聴器を仕掛けてどうするつもりか。いや、確かに気の抜けるところではある。細かく見て回ると小さな丸いシールが張られているのを見つけた。最初はもともと付いていたものかと思ったが、こんなものはなかった。シールをはがし、受信装置に近づける。ジジジジジ……と反応した。おそらく相手の受信機の電源が入るとこちらの電波を飛ばす仕組みなのだろう。直径一ミリほどのチップに眉をしかめた。最新技術だろう。山崎も見た事のないものだった。

「土方さん。それらしきもの、発見しました」

そういってシール十枚ほどを提出する。戻った取調室にも同じものが貼付けられているため確信は持てた。本当にあるとは思っていなかったのだろう。優秀な部下が持ってきた物に眉間を押さえた。土方がデスクにある受話器を持ち上げようとしたとき、山崎の持っていた受信機が甲高い音を立て始め、盗聴が始まった事を告げた。

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