15

山崎と土方の間に緊張感が走り、二人とも咄嗟に口を噤んだ。数秒間、発信を続けた盗聴器は再び沈黙する。顔を見合わせた。

「鑑識に送ってみます。あと、おそらくまだ有るでしょうから、それの探索も続けます」
「ああ…人手を増やしてくれ」

眉間にしわを寄せて土方はタバコに手をのばす。ライターで火をつけた土方は思わぬ事態に混乱した頭を整理しようと首をまわす。紅蜘蛛党逮捕、近藤襲撃事件、工事中のビルの崩壊、行方不明のマナと公安内に仕掛けられた盗聴器。たった二十四時間に起きたこの数件の事件は繋がっているのだろうか、それとも無関係なのだろうか。いや、どこかで繋がっているはずだ。土方は銀時のもとにいたマナが名前の妹だと知らなかった。そのため、まず手近な手がかりとして近藤を襲った青年から話を聞き出そうと腰を上げる。留置所の彼を呼ぶよう指示し、自らも取調室に足を運んだ。

「土方さん!!」

原田が大きな体を揺らして走り寄ってくるという圧迫感のある光景を目にした土方は灰皿にまだ半分も吸ってない煙草を押し付けて原田の言葉を待った。土方の前で少々息を整え、スキンヘッドに浮かんだ汗を拭うことなく口を開く。押し殺した声は聞き取りづらく、土方は聞き返した。

「…例の男が死にました」
「どういうことだ?」
「毒を仕込んでいたらしく先ほど、連れ出そうとしたときに…」

男の銀歯の中に青酸カリが仕込まれていたらしい。銀ごと噛み砕いて飲み込んだと聞いて土方は表情を険しくした。どうしてこのタイミングで自殺をしたのか。盗聴器が見つかったことが原因ならば、どうしてその事実を知ったのか。

「近藤さん、緊急会議を開くぞ」

会議室で紅蜘蛛党の残党についての報告を聞いていた近藤のもとに土方は歩み寄り、耳元で先ほどの一件を伝える。頷いた近藤はすぐに緊急会議の準備を始めた。この件は想像以上に厄介だ。上京と事情がわかる相手が必要だ。そこで脳裏に浮かぶのは名前の姿。だが彼女との連絡手段がない。…いや、あるかもしれない。

「近藤さん。俺は昨日からの一連の事件は全てつながっていると考えているんだが…」
「恐らく紅蜘蛛党関係でつながっているはずだ。あの男の左足にも蜘蛛の入れ墨があった。ビルでの爆発も奴らの仕業かもしれないな」

ホワイトボードが三つ運ばれ、事件の関係者の相関図が書かれた模造紙がその内の一枚に貼られた。崩壊したビルの近くでマナに会ったことは土方しかしらないため、春雨と紅蜘蛛党がつながっていることしかまだ書かれていない。取り調べはすすんでいるが、何処まで吐かせられるか。やはり他の情報が欲しい。リダイアルで坂田探偵事務所に電話をかける。すぐに出た銀時に土方は盗聴器が見つかったことを告げる。唸った銀時に土方は違和感を覚えた。まるで彼も本当にでてくるとは思ってなかったようではないか。

「おい、ちょっと話があるんだが」
「あ?俺は忙しいんだけど」
「お前んとこの女子高生、すまいるでバイトしてたぞ。確か、昨日の夜に見かけた」
「は?!なにやってたのあいつ?!」
「とにかく、聞きたいことがある。一時間後にすまいるな」

銀時は裏社会に通じている。何か土方達には見えない共通点を見つけ出すかもしれない。捜査について話すのは気がひけるが仕方ないと土方は腹をくくった。緊急会議の議題をまとめ、近藤に概要を説明する。そして自分が銀時と会ってくることも告げた。もちろん場所は伏せた。

「総悟。頼むぞ」

上着のポケットから拳銃を取り出し、土方に向けた沖田は返事の代わりだとでも言うように「ばーん」と声をだした。お返しとばかりに土方はクリップで止めた書類を沖田に向けて投げる。ひょい、と頭を下げた沖田によってその書類は山崎の後頭部に直撃することとなった。

「サボりですか土方さん。いいご身分ですね」
「聞き込みだバカヤロー。お前こそさっきまでどこ行ってやがった」
「聞き込みですよ」

小ばかにしたような沖田に苛立ちを隠さない土方だが、なんとか堪えた。主要メンバーが集まったのを確認して会議室に入った。三十分ほど会議に出て、抜ければいい。各担当の報告を聞き、情報を模造紙に書き込んでいく。

「地雷亜の目撃情報があがりました。場所は新宿と日暮里です。あと、この件に関係あるか分かりませんが、高杉晋助らしき人物も目撃されています」
「……」
「拘留中の春雨の一員に関してですが、どうやら彼は中国人のようです。取り調べは難航しています。紅蜘蛛党のほうからの情報は今、篠原がまとめ作業に入っていますが…途中までのデータをお送りします」
「ああ、頼む」
「崩壊したビルですが、所有者がすでに存在していません。工事も二年前から途中のままストップしているようです。発火場所は地下駐車場。薬莢らしきものが見つかったことから銃の使用が認められます。それと、身元不明の死体が三つほどでてきました」

原田の言葉に低い呻き声があちらこちらから漏れた。もうお手上げだ、とでもいうように斎藤終が頭を抱える。土方も頭が痛くなってきた。そんな彼らを横目に沖田はスマートフォンをしきりに弄る。会議中ぐらい電源を切ってほしいものだ。

「お、返信きやした」
「総悟。いい加減やめろ。電源切れ」
「いいんですかい土方さん?情報提供者ですぜィ。それも、かなり有力で信頼できる」
「誰だよ」
「みんな大好き、名字名前でさァ。あの女ネトゲにハマってるって知ったんでそっち方面から連絡を取ってみたらビンゴで」
「…本物なのか?」
「さぁ?でも、連絡を取る価値はあるかと」

しばらく逡巡したが、沖田の判断にまかせることにした。そろそろ時間だ。土方はスーツの上着を羽織り、後を近藤に頼む。眠気冷ましにコーヒーを一気飲みし、車のキーをポケットにしまった。

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