08

駐車場はほぼ完成しているようだが、ところどころ天井にグレーチングが嵌められていた。
それをすぽりと抜き去ったのは銀時だった。天井裏に足を引っ掛け、桂が持ってきたグロック18を背を向ける阿伏兎へと発砲する。
名前は気を取られた神威に向かって手に取ったスプレーを発射した。駐車場の入り口から入ってきた高杉が催涙スプレーを投げたのだ。

「どうしてこの場所がばれたのかな?」
「発信器飲みこみやがったんだよアイツ」
「へェ。あれってピアスに反応したんじゃないのか」

神威は金属探知機を思い出して薄く笑った。素手の神威と応戦するのはグロックを持った高杉だった。催涙ガスの目眩しを使い、彼女と神威の間に体をすべり込ませて距離を取っていた。
名前は阿伏兎に向かって脚を振り上げた。
椅子の縄を断ち切る銀時は彼女にIMIデザートイーグルを放る。その銀時の手にも鈍い輝きを放つ日本刀があった。
マナの体が銀時に抱えられたのを見て高杉と名前は道を開けた。戦力的には名前が離脱するのが妥当だが、彼女には女子高生一人抱えて走る腕力も体力も無い。脱出する銀時の背中を見て阿伏兎が困ったように眉を下げた。

「あらら、逃げられちった……団長ォ、どうするよ?」
「追う必要はないヨ。ただ、名前は逃がしちゃダメだからネ」
「おじさん、手加減って苦手なんだけどなァ」

高杉に背を預けた名前は接近戦を避け、阿伏兎から距離を置いて銃を構えていた。破壊力は申し分ない銃だが、射撃体勢をきちんとしなければ反動で自分も反動を受ける。動きながら連射できないのが欠点だ。阿伏兎の発砲する弾を自分の弾ではじいて見せた。名前が打つたび、反動が高杉の背にまで伝わってきた。

「……阿伏兎、殺すなヨ」

銃をしまった部下を見て神威はもう一度忠告した。素手で取り押さえようというのだろう。名前の警戒心が一層高まるのを高杉は感じ取った。高杉の役目は名前を逃がすこと。名前と高杉の視線が絡みあい、名前が必死に瞬きで何かを伝えた。神威と阿伏兎の危険さは必要以上にわかっている。阿伏兎と名前がここで交戦しても名前が勝つことは万が一にもないだろう。神威は傍観を決め込むようだ。ならば、彼女の援護を、と考えた高杉だった。神威の体が動いた。

「ダメだヨ。もう一度名前の実力を見極めるいい機会なんだ。邪魔しちゃ、ダメだヨ」
「お前さんは何か思い違いしているようだ。こいつは殺しのプロだが、あんたが想像してるほど強くねェと思うぜ」

神威が高杉へと殴りかかり、応戦するために高杉は彼女から離れた。それを視界にとらえ、阿伏兎との距離を測っていた名前が予備の弾倉を咥えた。構えの姿勢を取り、大きく息を吸う。阿伏兎に銃口を向け、挑発するように口角を上げた。高杉が神威から離れる。阿伏兎が拳銃を取り出すのと、名前が振り向きざまに神威に銃口をそらし、発砲するのは同時だった。


■ ■ ■


追ってくる連中をグロックで撃ちながらやっとのことで銀時はビルから脱出した。このまま安全なところに彼女と行きたいが、名前の援護に向かったほうがいいだろう。ビルから少し離れた場所にあるアパートの階段に腰を降ろし、マナにつけられている目隠しと耳栓を外した。

「銀ちゃん……?」
「おう、もう大丈夫だ。怪我はないか?」

彼女の意識はあったようだ。泣き出すマナの背を優しく撫で、彼女を閉じ込めるように抱きしめた。無事でよかった。階段で抱きしめあう若い女とスーツ姿の銀時は目立ちすぎていた。買い物にいくのだろう主婦の冷たい視線が刺さる。ようやく体を離した銀時はマナの涙を乱暴に拭った。

「お前ここで待ってられるか?」
「え……?」
「俺は戻らなきゃいけねーんだよ」
「どうして?」
「お前を助けにきた仲間がまだあそこに居るからな」

それでも不安なのだろう。涙を大きな目に溜めて銀時に行ってほしくないと切実に訴えている。彼女の気持ちは痛いほどわかるが、名前が心配なのだ。銀時はポケットのなかから黒いスマートフォンを取り出してとある番号へと掛けた。

「もしもし?ゴリラ?」
「えっ、万事屋?!なんで俺の携帯番号知ってんだよ」
「お妙から聞いたんだよ。うっせーな。電話口で吠えんな」
「で、なんの用だよ。俺いま忙しいんだけど」
「一人保護してほしい奴がいんだけど……え?パトカーまわせよ」
「ふざけんなよ私用でそんなことできるか」
「高校時代のお妙の写真」
「え」
「女子高生お妙の写真」
「え?!」
「この携帯逆探知して迎えに来いよ」

確実に近藤はパトカーを回すだろう。きっと土方か沖田が来るはず。少し落ち着いた様子のマナの肩を軽く叩き、立ち上がる。だが銀時の袖を掴んだ少女はその手を離そうとしなかった。小さく何かを呟く。聞き取ろうとしゃがんだ銀時の口に柔らかいものが触れた。

「お前……」
「お姉ちゃんがいるんでしょ……」
「……」
「銀ちゃんはお姉ちゃんのことが大好きだもんね……」
「姉貴はお前を助けに来たんだぞ」
「……」
「な、すぐに戻ってくるから……」
「ずるいよ。いっつもあの人ばっかり……」

暗い目で姉への怨嗟を吐き出すマナの姿は今まで銀時が目にしたことのない姿だった。どうしていいのか分からず、でも今するべきことは分かっている。少女を置いて戻ろうとする銀時の耳に地面を揺るがすような爆発音が聞こえた。アパートの敷地を出て先ほどまでいたビルの方向を見る。どす黒い煙の中にちろちろと火の手が見え、絶句した。

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